「報告書を50万円で買って頂きたい」開業医200人以上に“脅迫状” 雑な文面でも金を払った事情は「80年代の黒い医療」か

  • ブックマーク

80年代の“空気”を読んだ犯罪

 1984(昭和59)年から翌年に発生したグリコ・森永事件以降、食品会社を脅迫する模倣犯が相次いで現れた。とはいえ、大企業相手に成功する例はほとんどなく、後追いの犯罪者たちはターゲットを変える必要があったようだ。

 一方で当時の日本は、高齢の入院患者を集めて大量の検査や投薬を行い、莫大な収益をあげる“老人病院”が社会問題となっていた。国会問題にもなったこの件に、70年代から盛んに報じられた医学部の裏口入学などもあってか、医師のイメージがお世辞にも良いとは言えなかった時代である。

 そこに前述の“企業脅迫”のムーブメントが合わさったのか、1987年に福岡で200人、東京で十数人の開業医に脅迫状が届いた。その文面は粗雑で、脅迫する内容を匂わせる程度のシロモノだったが、東京では数人の開業医が実際に金銭を支払っている。何か後ろめたいことがあるのでは――という犯人の読みが当たっていたこの事件とその背景を、「週刊新潮」のバックナンバーで振り返る。

(以下「週刊新潮」1987年4月2日号「開業医たちの『黒い医療』を狙った『脅迫犯人』の着想」を再編集しました。文中の肩書き等は掲載当時のものです)

 ***

「貴方様にとっては大変お困りになる項目が」

〈書面にて失礼ですが自己紹介させていただきますが、私は東京都内に本社を置くある調査機関に勤める者で御座居ます〉

 とその脅迫文は始まる。かなり拙い文章で、しかも句読点なしのワープロ印刷なので読みづらいが、多少修正しながら転写すると、

〈調査費も高いが高度の機密調査を引き受ける会社〉〈あらゆる人材や人脈を使い、また一般に出回ってない精度の高い機材を使い、皆様が驚かれる様な内部の調査が可能〉と、まず勤務先を紹介し、その会社で長年にわたり様々なプロジェクトの責任者を務めたと自己紹介。だが、他人の弱みなどを調べる仕事に嫌気が差して〈近く会社をやめる〉と訴えると、一転して〈話は変わり本題ですが〉と切り出す。

〈失礼ながら、ある依頼人様より、何に使用されるか判りませんが、貴方様の業務内容、プイバシーなど、いくつかの調査項目を受け、大変苦労して約5カ月間にわたり調べさせて頂きました。あとは私が調査報告書をまとめるだけとなりましたが、見ていただけば判りますが、悪用する人に渡りますと、貴方様にとっては大変お困りになる項目がいくつか有ります。そこで相談ですが、決してこれは脅迫ではありませんので誤解しないで下さい、この報告書を50万円で買って頂きたいと思いますがいかがでしょうか〉

 以下も言い訳やら脅しめいた文句を並べた揚げ句、末尾の宛先に大田区内の郵便局を局留めで指定し、〈受取人 佐藤一三〉と結んで終わる。

次ページ:なぜ福岡で200人?

前へ 1 2 3 次へ

[1/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。