小さな虫が巨大な問いを投げかける 養老孟司と21歳俳優・片田陽依の「虫愛」対談
自然界に直線は存在しない
片田さんは、現代社会には虫が嫌われやすい「構造」があると指摘する。
「テレビなどのメディアが取り上げるのは“害虫”や“大量発生”といった、虫の負の側面ばかりです。コンクリートに囲まれた都会で暮らしていると、日常で目に触れる虫は魅力的なものよりも人に害をなすものがほとんど。本来そういった虫はごく一部なのに、それが虫の全てだと思い込んで嫌いになってしまう。そういう環境が出来上がっているのだと思います」
都会の人工物は直線ばかりだ、と養老さんは続ける。
「人は網膜の中で点と点を結び、線の像を描きます。頭の中に線を引くことに慣れているせいか、直線を好む習性があるようですが、実は自然界に直線は存在しません。数学者のブノワ・マンデルブロが広めた『フラクタル』という概念がありますが、自然の線は虫眼鏡で拡大するとギザギザとした複雑な幾何学模様を描いています。自然というのは本当に奥深い。その自然が生み出した昆虫の造形に目を向けると、いくらでも発見があるのです」
養老さんが特に好む虫はゾウムシ、片田さんはカメムシ。どちらも丸みを帯びたフォルムを持つのは偶然だろうか。養老さんは、片田さんが虫好きになったきっかけに興味を示す。小さい頃から生き物全般がお好きだったのか、最初から虫に惹かれていたのか。
「芸能界に入ったのも虫の魅力を広めたいからだと聞きましたが?」(養老さん)
「親によると、生まれたときからもう虫が好きだったそうです。自我が芽生える前、0歳か1歳の頃から蝶々の図鑑に興味を示していたと。成長するにつれカマキリなどさまざまな虫に夢中になって。でも中学生になったとき、ふと気づいたんです。周りはあまり虫が好きじゃないんだって……」(片田さん)
「虫を知る」ことの意味
芸能活動を通じて虫の魅力を発信し、世界的に数を急減させている昆虫たちの危機を救いたいと語る片田さん。その今後の活躍に期待したい。
最後に、養老さんに「虫を知る」ことの意味を聞いた。
「若い頃は、まず自分という存在があって、その周りに別の人がいるという感覚の中で生きていました。でも、その感覚がひっくり返る瞬間が来る。随分な年齢になった今は、むしろ世間というものを、かつてなくありありと感じています。いろんな人の存在がまずあって、その中に初めて自分がある。虫は、そういう感覚を直感的に教えてくれる存在かもしれません」(養老さん)
夏に向かうにつれ、虫たちの活動期が始まる。二人は顔を見合わせ、子どものように笑い合った。
「今年はどうでしょうね。虫の出が楽しみですね」(養老さん)
「よろしければぜひ、虫採りにご一緒したいです」(片田さん)
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「養老孟司と小檜山賢二の虫展」は東京都写真美術館で5月24日まで開催後、夏には豊田市立博物館、秋には岡山県立美術館ほかその後も全国各地を巡回予定。片田陽依さんのYouTubeチャンネル「ひよりの虫日記」では、虫探しの日常や昆虫への思いを発信中だ。




