小さな虫が巨大な問いを投げかける 養老孟司と21歳俳優・片田陽依の「虫愛」対談
3月21日から恵比寿の東京都写真美術館で開催中の「養老孟司と小檜山賢二の虫展」。昆虫の微細な特徴を巨大なスケールで映し出すこの展覧会のアンバサダーに就任したのは、俳優の片田陽依(ひより)さん(21)だ。片田さんは自身のYouTubeチャンネル「ひよりの虫日記」で虫の生態や魅力を発信する“虫プロデューサー”として活動している。解剖学者の養老孟司さん(88)とは初対面だが、虫を愛する者同士の会話は尽きることなく続いた。
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【写真を見る】虫を愛する者同士、意気投合する88歳学者と21歳俳優
世界の解像度が上がる写真展
アンバサダー就任の感想を尋ねられた片田さんは、目を輝かせながら語り始めた。
「お話をいただく前から『虫展』にはぜひ行きたいと思っていたので、とても嬉しいです。展示の最大の特徴は、普段目にするような小さな虫たちの姿が、人間よりもはるかに大きなスケールで映し出されていること。眺めていると大きさの感覚が溶けていくようで、不思議な没入感があります。鑑賞もでき、観察もできる――。見れば、世界の解像度が少し上がる。そんな展示だと思います」
片田さんの言葉に、養老さんが深く頷く。
「見慣れているものでも、大きくして見ると全く別の顔を見せるんですよね。望遠鏡や顕微鏡という道具が古くから発明されてきたのも、人間には元来“もっと見たい”という欲求があるからでしょう」
展示された虫の写真パネルには、際立った技術的特徴がある。養老さんとともに本展を企画した「虫友だち」、慶應義塾大学名誉教授で工学博士の小檜山賢二さんが考案した「深度合成技法」だ。その凄みを片田さんが解説する。
「数ミリ、数センチの虫たちの細部すべてにピントが合っていて、模様や細かい毛まできっちり見えるんです。しかも背景に影がまったくないので、昆虫の立体感が際立って、いくら見ても飽きません」
なぜ虫に目を向ける人が少ないのか
虫の細部に宿る神秘について語り合ううちに、話題は自然と「なぜ美しいのに、虫に目を向ける人が少ないのか」というテーマへと移っていった。
「ちょっと視界に入っただけで、もう見たくないという人が多いでしょう」と養老さんが苦笑いしながら問いかける。
「昆虫の造形はとても複雑で、それでいて本当に美しいと思うのですが、そこに目を向けようとする人はあまり多くありませんよね。それはなぜなのでしょう」(片田さん)
養老さんは自身の専門である解剖学と重ねながら、ゆっくりと語り始めた。
「仕事で人体の解剖をしてきましたが、人体の内部も、人が見たがらない典型です。見たくなくても、そこにあるのだからしょうがない――といつも言っているんですが。あるものはあるものとして向き合うしかないでしょう」
片田さんがいたずらっぽく尋ねる。「先生は、人のことはお好きですか?」
養老さんは間を置かず「いいえ」と即答。笑いが広がるなか、こう続けた。
「人によりますね。好き嫌いはありますから。解剖にしても虫にしても、見たくないという人がいるのは仕方がない。食わず嫌いというやつです」
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