「自衛隊の歌姫」国歌斉唱問題は誰のどういうミスだったのか

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 いつもの光景というべきか、「自衛隊の歌姫」が自民党大会に参加し、制服姿で国歌斉唱をした一件では、「法的に問題ないのだからガタガタ言うな」的な意見から「政権のおごりの象徴だ」的な意見まで、百家争鳴の状態となっている。

『「“右翼”雑誌」の舞台裏』などの著作があり、自衛官だった父を持つライターの梶原麻衣子氏は、この件をどう見たか。冷静な議論のために論点を整理してもらった。

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「NHKから国民を守る党」でも呼べるのか

 自民党大会で自衛官が制服を着て国歌斉唱をリードするために参加した問題(以下、党大会問題)について、問われるべきは国歌を歌った自衛官個人ではない。党大会への歌唱のための参加を自衛隊法上や組織の問題だとしたくないばかりに「出演した自衛官は私人」を強調する自民党には猛省を促したい。

 一方で、「自衛官が制服で国歌を歌うこと」の是非にのみ焦点を当て「問題ない」と言い切る人たちもいるが、これは間違いだろう。今回問われているのは「党大会」というシチュエーションに問題はなかったか、という点である。後述するように自衛隊は国民のものであり、自民党のものではないからだ。

「自民党が呼ぶのが問題だというなら、他の党も呼べばいいじゃないか」という声も上がっている。だが自民党が与党だから公共感があるように感じるだけで、これが参政党や日本保守党、かつてのN国(NHKから国民を守る党)など、国政政党だったとしても必ずしも国民の大半の支持を得ているわけではない党だったらどうなるのか。政治的中立性だけを問えば、自民党のみ許可する方が問題となりかねない。となれば自衛隊は今後、どの政党からの依頼も断れなくなり、各政党の権威付け、党意高揚のためにいいように使われかねない。

 こうした問題意識を前提に、ここでは「自民党の対応」とそれを見誤らせたと考えられる「自衛隊の広報の変遷」に焦点を絞って考えてみたい。

業者のせいにする自民党

 今回、自衛官に国歌斉唱のリードを依頼した経緯は〈党側からの発案・要請ではなく、党大会の演出などを企画している業者側から、「歌手の候補」として推薦があったもの〉(萩生田光一幹事長代行)だという。

 党大会について、有村治子総務会長は〈自民党において最もフォーマルかつ最終的な意思決定の場〉として、年に1度開催されるものだとSNSで発信している。そのため、もちろん党側も萩生田幹事長代行によれば〈「党大会運営委員会」を設置し、そのもとに「党大会実行委員会」を設け、具体的な企画・運営について協議を行って〉いるとし、同時にこうも説明している。

〈党側から当該業者に、「現役の自衛官が一政党の党大会で歌唱することについて問題ないか」について確認をしたところ、防衛省も「問題ない」との回答があった、と承知しています〉

 つまり、党としては「問題がある可能性」を考えていたことになる。だがそうでありながら自民党は自ら判断するのでも、直に自衛隊側に問い合わせるのでもなく、「業者を挟んで問題ないことを確認した」だけということになる。

〈最もフォーマルかつ最終的な意思決定の場〉である党大会の内容にもかかわらず、この主体性のなさはどうだろうか。〈最もフォーマルかつ最終的な意思決定の場〉という表現とのちぐはぐさを感じざるを得ない。

「歌姫」と称される自衛隊音楽隊の歌唱担当の自衛官の歌声は、その名に違わず感動的なものだ。必ずしも自衛隊に好意的ではない人であっても、その歌声には魅了されるほど。歌唱用の制服の効果も絶大で、その凛とした姿には誰もが思わず息をのむだろう。

 自衛隊の音楽隊は部隊の団結鼓舞や士気高揚といった本来の目的を超えて、現在では強力な自衛隊の広報ツールの一つにもなっている。さらには被災地での演奏など癒やしの効果さえも持ちつつあるという。だからこそ、「その効果にあやかりたい」と考える人たちも少なくないのだ。

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