「自衛隊の歌姫」国歌斉唱問題は誰のどういうミスだったのか

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自衛隊は涙ぐましい努力を積み重ねてきた

 自衛隊の広報という観点でいえば、自衛隊は発足直後から国民、地域住民の理解を得るべく涙ぐましい努力を重ねてきた。アーロン・スキャブランド『日本人と自衛隊―「戦わない軍隊」の歴史と戦後日本のかたち』(原書房)に詳しいが、旧軍の負の遺産を背負って歩み出したばかりの自衛隊への世間の風当たりは厳しかった。それを払拭するために、自衛隊はかなりの努力を強いられた。

 筆者は24代陸幕長を務めた冨澤暉さんから「幹部になりたての頃、若い部下と一緒に駐屯地近くの田んぼで田植えを手伝った」と聞いたことがある。さっぽろ雪まつりへの協力も自衛隊が地域の理解を得るための広報活動の一環だった。

 東日本大震災など災害現場での活躍を目の当たりにしたことで、世論は自衛隊について「信頼できる組織」と感じるようになる。ただしそれは「災害救助隊」としてであって「軍隊」とは言い切れない面もあるが、一部の反対派を除けば「自衛隊が幅広く活動し、制服や作業服が人目に触れることはまかりならん」という人はごくわずかとなった。

 さらに時代は、自衛隊が「映えるコンテンツ」となるまでに変わった。画像でも動画でも、制服姿や戦闘服姿の自衛官や装備品は「映える」。それは自衛隊側も自覚していて、「広報」目的のための露出を増やすべく各駐屯地もSNSアカウントを持ち、隊員募集の任を負う各地方協力本部も、動画による発信を含めて力を入れている。

 というのも、充足率が90%程度となり、士の階級では実に67%と厳しい情勢の続く隊員募集を何とか改善しなければならないからだ。

 現在、その「映え」を最も効果的に使っているのが他でもない小泉進次郎防衛大臣だ。

政府と党の区別はついているか

 小泉大臣は防衛大臣就任後、積極的に自衛官との交流をSNSで報告している。現場から上がってくる声に応じて待遇改善を図る意向を示すほか、外部から寄せられる心無い声に苦しむ隊員の家族を登場させ、世間に配慮を求める投稿もある。自衛官の家族だった筆者としては、小泉大臣の自衛官思いの姿勢をありがたく思ってもいたところだ。

 だが一方で「映えない」問題、例えば組織内のセクハラやパワハラの問題への言及が手薄なことが気になっていた。小泉大臣は今後、こうした問題にも積極的に取り組んでくれるのか、見ていかなければと思っていた。

 その矢先の党大会である。

 ここで自民党の問題と自衛隊の広報の問題が交差する。

 小泉大臣はいわば「いつものように」、自身の活動に関わった自衛官である「歌姫」とのツーショットをSNSの自身のアカウントにアップしている(後に削除)。防衛大臣として自衛隊の広報の一端を担う気持ちもあったのだろう。だがシチュエーションは党大会であり政府の式典ではない。

 大臣以下防衛省、自衛隊はもちろん、そもそも自民党は「政府と党」の区別がついているのか。こうした区別意識の欠如と「映え」に引き寄せられる政治サイドのうかつさが、今回の問題を招いたのではないか。

 自民党幹部に、巷間言われるような「自衛隊を私兵にしよう」とか「人民解放軍のように党の軍隊にする」つもりなどさらさらないのだろう。だからこそ「自衛隊が問題ないと言っているから大丈夫」「イベント会社が確認したから平気」「広報にもなるし映えるからSNSでも発信しておこう」といううかつさと、「政府と党の区別がついていない」ことによって今回の事態を招いたのではないか。

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