「元照ノ富士」2階級降格は本当に“甘すぎる処分”なのか? 「暴力指導」を巡る角界と世間の“ねじれ”の真相

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八角理事長のリーダーシップ

 処分の一貫性と透明性に揺れる中、相撲協会も動きを見せている。

 2018年にコンプライアンス委員会を立ち上げた。ホームページには「暴力決別宣言」を掲載。
一、大相撲においては、指導名目その他、いかなる目的の、いかなる暴力も許さない。
二、暴力と決別する意識改革は、師匠・年寄が率先して行い、相撲部屋における暴力を根絶する。

 以下、七か条が明示されている。

 力強い言葉で間然するところがない名文である。その後も研修会を重ねるなど活動を続けている。しかしそれでも、今回のような事件は起こる。

 強い言葉で暴力決別を高らかに宣言しているものの、相撲協会の対応にはどうも混乱と迷走の色を感じてしまう。暴力根絶とは言いながらも、「正当行為と暴力は地続き」という認識が角界にまだまだ根強い。ここに一般社会とのズレが生まれるのだろう。本来ならば、協会は、そのギャップを埋めるべく、言葉を尽くして説明すべきであった。

 現政権、八角理事長のリーダーシップに期待したいところだが、歴史と伝統を重んじるせいか変化のスピードが著しく鈍い角界、スパッと快刀乱麻にというわけにもいくまい。ましてや八角理事長は実質6期11年の長期政権。もう62歳である。今回の処分についても、表に出て説明する姿は見られなかった。

期待する親方は

 ここは思い切った人事こそを期待する。私が注目しているのは、二所ノ関親方(元横綱・稀勢の里)である。

 今年で40歳。まだまだ若いだの経験不足だのと首を傾げるのはナンセンスだ。親方は引退後に早稲田大学大学院でスポーツ科学を学ぶなど研究熱心。歴史と伝統からは考えられない経歴だろう。中卒で入門した鳴戸部屋(当時の親方は元横綱・隆の里)は角界一の稽古量として知られ、親方の指導も厳格そのものだった。鳴戸親方は言葉を尽くすことを信念とし、ときおり稽古を止めて長々と説教したものである。親方は竹刀を手にしていたものの、それを弟子に振るうことはなく、竹刀で土俵に線を引き、「ここまで押せ!」と叱咤激励していた。

 そして鳴戸部屋のちゃんこは角界一の豪華さとしても有名、食べることを稽古と同様に大切にした。食材に凝り、調味料を揃え、部屋の台所には麺打ち台まであった。親方はNHKの料理番組に調理人として登場したこともある。当時の角界では異端児扱いされていたきらいがある。いわばイノベーターだった。

 そんな親方から薫陶を受けた二所ノ関親方こそ、その年齢も相まって、気になる存在である。インバウンドの影響もあり、空前の人気に沸く現在の大相撲界。協会は今こそ咄嗟に身体と頭を動かすべきだ。

須藤靖貴(すどう・やすたか)
1964年東京生まれ。1999年、『俺はどしゃぶり』で第5回小説新潮長篇新人賞受賞。スポーツ小説を数多く手がける。相撲小説に『おれ、力士になる』、『押し出せ青春』、『力士ふたたび』、『消えた大関』などがある。

デイリー新潮編集部

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