「元照ノ富士」2階級降格は本当に“甘すぎる処分”なのか? 「暴力指導」を巡る角界と世間の“ねじれ”の真相

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一貫性に欠ける処分

 親方の弟子への暴力事件で真っ先に浮かぶのは2007年の「時津風部屋力士暴行事件」。あまりに酷すぎる事件なので詳しくは触れない。しかも亡くなった被害者は身体のできていない序ノ口力士だった。だが親方が逮捕されて刑事事件にまで発展したものの、部屋そのものの閉鎖には至っていない。

 近年では2020年7月の中川部屋の一件。弟子3人に対する暴力や暴言があったとして中川親方(元幕内・旭里)は2階級降格、中川部屋は閉鎖。悪質性が高かったとはいえ部屋の取り潰しとは苛烈である。

 また、新しいところでは角界追放となった大横綱・白鵬。その処分と比べるとどうなのか? といった声も聞かれる。ただ、確かに白鵬は自ら手を挙げたわけではないが、親方になるときに前代未聞の誓約書を書かされ、いわば“保護観察中”の身であった。「やらかし」への厳しい処分は妥当だろう。誓約書を反故にした白鵬の処分を引き合いに出すことはいささか見当はずれにも見える。

 日本相撲協会の処分は一貫性に欠ける印象が強い。史上最悪の死亡事件の舞台である部屋は存続。名門部屋だから目こぼしかと勘繰られても仕方ない。コンプライアンス意識の高まりが時代の趨勢だとしても、角界の事件の処分はだいたい一貫性に欠けるのである。だから甘いだのなんだのと意見が割れる。過去の事例を持ち出して「あの事件よりは甘い」、「いや、この事件と比べれば厳しすぎる」となるのも無理はない。

正当行為と暴力

 今回の一件、「甘い処分と思う」との藤本氏の言葉に一度はうなずきかけたものの、わたしは小さく首を横に振った。

 弟子の破廉恥な行為に対し、指導監督者が即座に手を打った。言葉で注意するのが筋だが、報道によれば、伯乃富士は泥酔していたというから、それも叶わなかったのだろう。

 力士は瞬間の間合いで生きている。理詰めで動くわけではなく、「咄嗟に手が出た」を是とする生業だ。事件現場は土俵ではないが。まあ文字どおり、弟子の手をピシャリと打つべきだった。しかし顔面一撃を目の当たりにし、被害者女性もさぞや驚いたことだろう。たいへんな不愉快を被ったと案じるが、親方の激高に多少なりとも溜飲も下がったのではないか。行為がエスカレートすれば、伯乃富士がわいせつなどで訴えられる可能性すらもゼロではなかっただけに、師匠の“一撃”は結果的には弟子を救ったことになるかもしれない。

 こうした暴力事件が起きた際、世間での見方と、角界での感覚に“ねじれ”が生じてしまうのは、相撲界の特殊性にある。

 顔面への張り手、のど輪などなど。ぶちかましは頭突きと一緒。一般からすれば暴力行為に思えるものが本場所や稽古土俵では「正当行為」とされる。張り手やのど輪は、相手の重心を上げるための技であり、相手を傷つける手段ではない。ちなみに中学や高校のアマチュア相撲では張り手は禁止。プロ集団である角界では正当行為と暴力が隣り合わせ、いわば地続きという見方も根強いのだった。

 そのせいだろうか、悪質性の高くない暴行問題には「まあ、大目に見ようや」という評価になるのではないか。

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