「元照ノ富士」2階級降格は本当に“甘すぎる処分”なのか? 「暴力指導」を巡る角界と世間の“ねじれ”の真相
ゴルフクラブ殴打事件
目下の力士を懲らしめたいのなら、正当行為にまぎれこませれば何をやっても文句が出ない。こちらのほうがよほど悪質だが、稽古の一環だから処分されることはない。相撲記者時代に目の当たりにした、ある部屋の朝稽古。関取が幕下の弟弟子を指名し、さんざんシゴいた。力の差があるから関取にとっては稽古にならない。後にその疑問を関取にぶつけると、「生意気だから、ちょっと可愛がってやった」と答えた。ちなみその関取は土俵以外で弟弟子をいじめたり厳しく当たったりすることはなかった。
さらに思い出した。2011年10月の「ゴルフクラブ殴打事件」だ。春日野親方(元関脇・栃乃和歌)が栃ノ心(当時幕内)他数名の力士の尻をゴルフクラブで殴打した。浴衣、着物以外の服装で遊び歩き、門限を破ったのだ。このときの相撲協会の処分は「厳重注意」。罰金も降格もなし。春日野親方は「やりすぎた」と反省の弁を述べた。
立場の弱い取的(幕下以下)への暴行は単なるイジメだ。だが一人前の関取(十両、幕内)への制裁は「しっかりしろ!」という叱咤激励の意味合いも濃い。栃ノ心も当時を振り返って笑い話としている。一説によれば顔面への殴打もあったらしいのだが。しかし武器(ゴルフクラブ)使用なのにお咎めなしに終わった。
暴力問題の論点のひとつは「やり方」だろうか。顔面殴打はもちろんダメ。腕力桁外れの元力士の拳、ひとつ間違えば惨事である。武器使用は論外。一方で、洋の東西を問わないお仕置きの定番、「お尻ペンペン」はどう捉えるべきだろうか。四股で鍛え上げた力士の尻は一般のそれとは違う。
尻に木刀
さらに記憶が蘇る。藤島親方(元大関・武双山)の苦笑いだ。
1994年の名古屋場所だったか、わたしは相撲記者で両国国技館に詰めていた。武双山(当時は関脇)の取り組みが終わり、支度部屋で記者たちが彼を囲む。そのときに「お尻のあざ、目立つ?」と言ったのである。武蔵川親方(元横綱・三重ノ海)の逆鱗に触れて、尻に木刀を喰らったという。
数日前の取り組みで、武双山は小兵力士の舞の海に負けていた。記者が「舞の海は武双山関への対策を眠れずに考えていたらしい」と振ると、「自分は眠らずに酒を飲んでいた」と返した。軽妙なジョークだ。武双山の受け答えは洒脱で記者人気も高かった。だがこれが記事になって親方の耳に入り、「負け力士が軽口を叩いてどうする」と叱られたのだった。後に大関に昇進する実力派人気力士に対しての鉄拳制裁である。しかも本場所中の。
そのときわたしは思った。「廻し一丁の姿が全国に中継される生業だ。お尻も顔並みに注目されるのではないか」と。ひょっとすると親方、そこまで考えを巡らせていたのではないか。他から尻の傷を指摘されるだろう、その際に、自らの勝負に対する姿勢、向き合い方を考え直せ、ということだったのかもしれない。
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