複雑怪奇な説明書に、とんでもない数のボタンがついたリモコン… 「ダメな日本」が詰まった電化製品にガッカリ(古市憲寿)

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 天井照明が壊れてしまったので、新しい照明器具を買ってきた。とにかく電気がつけばいいと思って老舗日本メーカーの製品を選んだのだが、今になって後悔している。壊れていた、とかではない。きちんと部屋は明るくなった。

 では何がダメなのか。リモコンがとんでもなく複雑なのである。「点灯」と「消灯」だけで十分なのに、何とボタンの数は21個。「白い色」「暖かい色」「ゆらぎ」など光の種類や、「おめざめ」「るすばん」などタイマー調整ができるようになっている。そのくせ最も使用頻度の高い「全灯」「消灯」ボタンのサイズはあまり大きくない。説明書は複雑怪奇の極みで、この21個のボタン全てに対して、細かい文字でびっしりと説明が書かれている。

 何だか「ダメな日本」が詰まっているようで悲しくなってしまった。性能が悪いわけではないのに、使用者のことを全く考えていないデザイン。よかれと思って多機能にしたのはいいが、それを全部リモコンに詰め込んで、結果的にひどく使いにくいものが完成する。これでは国際競争力など望むべくもない。

 例えば世界一人気の家電ともいえるiPhoneには、説明書が付属していない。初めてiPhoneを買った時にショックを受けた人もいるだろう。それまで日本の電化製品には、分厚いマニュアルが同梱されるのが常識だった。全機能を説明するのがメーカーの責任だと思われていたのだ。しかしアップル社は「説明書が必要な時点でUI(ユーザーインターフェース)が失敗している」という考えの下、世界中の老若男女が何も参照しなくても直感的に使えるデザインを目指した。iPhoneにもユーザーガイドはあるが、熟読する人はいない。優れたデザインには操作説明など必要ないのだ。

 そういえばノルウェーに留学していた時に驚いたのは、郵便局のウェブサイトの潔さ。今でもそうだが、トップページには大きく「Spor pakken din!(荷物を追跡しましょう)」の文字と検索窓が配置されている。わざわざ郵便局のサイトを訪れる理由のほとんどは、荷物の配達状況を知りたいからのはず。そう予想して追跡画面を目立たせているのだ。

 さて、日本郵政はどうだろうか。スマホでサイトを開くとまず飛び込んでくるのは、よく分からないイメージ画像と「重要なお知らせ」。ちょっとやそっとでは追跡サービスにたどり着けない構造になっている(ただし社長あいさつは比較的すぐ見つかる)。民営化されてから随分たつが、日本郵政がどこを向いている会社かが分かって興味深い。

 だが日本のUIが全てダメかといえば、そんなことはない。成功例はゲームだろう。任天堂のゲーム機や、ポケモンなどのゲームソフトは、説明書など読まなくても誰もが直感的な操作が可能。優れたUIは国境や文化を越えるのだ。とりあえず日本中のリモコンはゲーム会社に作ってほしいと思う。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。他の著書に『誰の味方でもありません』『平成くん、さようなら』『絶対に挫折しない日本史』など。

週刊新潮 2026年4月16日号掲載

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