都市部で急激に進む「バス減便」 東京23区なのに路線が消滅した「世田谷」の実情

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バス減便で生活に起きうる変化とは

 ここまで見てきた差は、単なる「本数の違い」にも見えるかもしれない。しかし実際には、日常の行動の組み立て方そのものに影響する。

 朝の通勤時間帯は、大きくは変わらない。幹線では本数が確保されているため、これまで通りの移動が成立する。「待てば来る」という感覚に変化はない。

 変化が出るのは、「それ以外の時間帯」である。

 例えば日中。買い物や通院といった用事で外出する場合、補完路線では間隔が30分前後に広がる。ここでは「どの便に乗るか」を先に決めなければならない。乗り遅れれば次まで待つことになり、外出全体の時間が大きく伸びる。

 本数が多かった頃には「買い物のついでに別の用事を済ませる」といった動きが成立していたが、今はバスの時間に合わせる必要があるため、用事ごとに移動を分ける必要が出てくる。

 さらに影響が出るのが「帰り」である。行きは時間を合わせられても、帰りは滞在時間によってバスに乗りたい時間がずれる。結果として、想定外の待ち時間が発生することもある。

 夜間になると、その制約はより強くなる。最終便が19時台後半から20時前後で終わる場合、それ以降はバス移動がそもそも選択肢から外れる。外出そのものを早めに切り上げるか、別の移動手段を考える必要がある。

 行動の自由度が下がることで、外出の回数や組み合わせそのものが変わってしまう。

市場に織り込まれていない「バス便物件」の不確実性

 バス路線に起きている変化は、交通手段の話にとどまらず、住宅の選び方にも影響するだろう。

 特に都内では、「駅からの距離」が不動産の価値を測る大原則となっているが、バスはその距離を補う手段と目されてきた。

 しかし、その前提はもはや安定したものではないことが分かった。

 重要なのは、この影響が不動産価格に表れるまでにはタイムラグがあるという点だ。

「バスが前提」という条件に不確実性が生じたとき、その立地はどのように評価されるのか。駅からの距離という「変わらない条件」を、バスという「変わりうる前提」で補ってきた物件は、その前提が崩れたときに何が残るのか。

 この問いに対する明確な答えは、まだ住宅市場に十分には織り込まれていないように見える。

【著者プロフィール】
マン点(まんてん) マンションアナリスト。一級建築士。20年以上続けている不動産ブログ「マンション・チラシの定点観測」の管理人
X(旧Twitter):https://x.com/1manken

デイリー新潮編集部

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