キース・ジャレット“伝説的ライブ”の仕掛け人は「18歳の女子高生」だった…史上最も売れたピアノソロの名盤“誕生秘話”を描いた映画「1975年のケルン・コンサート」が話題

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「即興」を再現することの意義

「キースがいうように、インプロヴィゼーション(即興)は一回限りで、二度と再現できるものではありません。ところが、その即興を完璧に写し取った〈楽譜〉が出現し、さらにそれを演奏(再現)するクラシック・ピアニストがあらわれた。こうなると、いったいジャズや即興とは何なのか、考えさせられてしまいます。現に、彼女の演奏に対しては賛否両論あり、“ジャズに対する冒涜だ”との声もあったようです」(前出・編集者)

 山口ちなみ自身、【5】のCDライナーノーツで、こう記している。

〈正直なところ、お恥ずかしながら『ザ・ケルン・コンサート』の存在を知らなかった私は、「すべて楽譜になっているなら弾いてみます!」と軽い気持ちでお答えしてしまいました。(略)ところが、聴いてみた瞬間――「なんとまぁ大変なことを軽々しく引き受けてしまったんだろう」と、心の中で大慌てしたのを覚えています。/“即興演奏を再現する”というテーマは、想像以上に奥深く、最初はどのように向き合えばよいのか悩みました。〉

 山口ちなみは、大阪芸術大学を経て、武蔵野音楽大学大学院を修了。以後、ソロや室内楽、コンチェルトなどで大活躍しているクラシック・ピアニストである。

「最初のスタジオ録音【5】は、たしかに〈楽譜〉を忠実に再現したもので、キースのオリジナルにあったスリリングな感覚はありません。それでも、これほどキチンと、あの即興演奏が再現されたことは、おどろき以外のなにものでもありませんでした」(同)

 しかし、何回かのコンサートを経た末に録音された【7】のライブ録音は、

「完全に、山口ちなみの身体に浸み込んでおり、彼女の音楽になっています。彼女は、ジャズの即興音楽を“咀嚼”して再生させるという、まったく新しいジャンルを生み出したといってよいと思います」(同)

 それというのも、やはりキース・ジャレットの生んだ音楽が、即興とはいえ普遍的な芸術だったからだろう。キースは、慢性疲労症候群のうえに脳卒中の発作を2回おこし、現在は半身麻痺の状態。復帰は絶望的といわれている。だが、こうやって東洋の果てで、その音楽は確実に引き継がれているのだ。ご本人は、あまり乗り気ではないかもしれないが……。

映画「1975年のケルン・コンサート」
配給:ザジフィルムズ(c)Wolfgang Ennenbach / One Two Films

富樫鉄火(とがし・てっか)
昭和の香り漂う音楽ライター。吹奏楽、クラシックなどのほか、本、舞台、映画などエンタメ全般を取材・執筆。シエナ・ウインド・オーケストラなどの解説も手がける。

デイリー新潮編集部

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