「ピッチャー、第1球を投げました!」 プロ野球「ラジオ実況」で3分に一度は伝える必要がある“大切な情報”とは?
「架空実況やってみて」
アナウンサー試験は、最終の役員面接を除き、必ず「音声テスト」が実施されます。実際に番組を収録しているスタジオに入って、複数用意されたニュース原稿やCM原稿、局主催イベントなどのお知らせ原稿の中から、「では何番のニュース原稿を読んでください」とランダムに指示されたものを読んでいきます。
続いて、録音機器などが並ぶサブスタジオにいる試験官からの質問に答えていくわけですが、単に質疑応答をするだけでなく、フリートークでの発声やマイクに声が乗るかどうかなどもチェックされます。
そんな中、東海ラジオの音声3次試験でいきなり「君、架空実況やってみて」と言われたのです。アナウンサー試験について、詳しい知識はない私でしたが、スポーツアナウンサー試験は一般のアナウンサー試験とは最初から区別され、「実際に球場などに連れていかれた上で実況のテストもある」と、他局の試験で知り合った人から聞いていたので、「(この試験は)一般アナウンサーの募集なのに」と不思議に思いながら、私はこう答えました。
「(面接で)お話しした通り、(アナウンスの)専門学校に通っていませんし、大学でもそのようなサークルにも所属していないので無理です」
試験官はサブスタジオでしばらく何事か話し合っていましたが、
「君、広島出身でカープファンだったよね。じゃあ、広島の小早川が中日の小松からホームラン打つシーンやって」
と、丁重に断ったにもかかわらず、追い打ちをかけてきたのです。
これまで聴いてきた野球中継を思い出しながら、やけくそで架空実況をやったのですが、なぜ急に架空実況をやらされたのかさっぱりわかりませんでした。
入社後に知ったのですが、3次試験の直前に、スポーツアナウンサーの一人が退職して他局に移籍することが判明し、その補充として私のスポーツについての特性を試したそうです。
その結果、東海ラジオから内定を知らせる電話で「君にはスポーツを担当してもらう」という一言でスポーツアナウンサーとなった訳ですが、前述の通り、それまで何の訓練も受けていなかったので、入社してからが本当に大変でした。
ラジオのスポーツ中継はもちろん「音だけ」で状況を伝えなければなりません。しかし実況の練習をするために連れていかれた2軍の試合で「さあ、しゃべれ」と言われても「あわわ、あわわ」と全く言葉が出てきません。
ここで初めて「お前、本当に学生時代何もやってなかったのか」と呆れられ、私が嘘偽りなく事実を話していたことが証明されたものの、まさに0からのスタートとなったのです。
まず叩き込まれたのが「野球はピッチャーがボールを投げないと始まらない。バッターが打たないとボールは飛んでいかない」ということです。つまり「ピッチャー、第1球を投げました」「バッター打った、打球はセンターへ」というように「投げました」「打ちました」を必ず言うこと。
そこで「ピッチャー誰々、キャッチャー誰々、バッターボックスは誰々、ピッチャー投げました。ストライク。カウントワンストライクです」と、まずはP-C間、つまりピッチャーとキャッチャー、バッターボックス、ここを徹底的に繰り返し描写する、このようなパターンを反復していくことで体に染み込ませます。
これがある程度できるようになると、守る野手の守備位置、スタンドの様子、(ナイトゲームの場合は徐々に陽が暮れていくなど)上空の描写、バックスクリーンの旗の動きから風の向きや強弱――というように、視野広く目に入ってくる景色を言葉にする訓練を重ねます。
もう一つ、ラジオのスポーツアナウンサーの鉄則は「ゲームは今何回で、表か裏か、何対何でどちらがリードしているか、何アウトか、打者のカウントは、ランナーの有無は」これを最低でも、3分に1回は伝えることです。テレビのような画面上の情報は一切ないので、途中から聴き始めた方に、こうした情報がストレスなく伝わるようにすることはとても重要なことなのです。
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