親が保育園を選ぶ基準の第1位は「立地」。通う児童の成長を左右する保育園の実践とは
世間的には「アウト」でも取り組む
おそらく一般的な園では、「リスク管理」や「近隣への迷惑防止」を考えてこの種の遊びを控えるはずだ。
やまなみこども園では、なぜそれが可能なのか。
園にかかわる全員が、子どもの成長を第一に考えているからだ。園と保護者が、リスクを乗り越えた先に子どもの成長があることを信じており、地域住民までもがしっかりと共通意識を持って応援してくれる。開園以来、取り組んできたのはそうした環境を作ることなのだ。
長年にわたってこの園の実践を研究してきた東洋英和女学院大学の塩崎美穂教授は次のように話す。
「あえて園としての型を作らずに、公的な保育の限界を越えたところで子どもの可能性を追求するところに、この園の実践はあると思っています。
大半の園が公的な保育の活動に留まり、定番の保育に終始しますが、やまなみこども園は毎回違うことに挑戦するばかりでなく、世間一般的には『アウトでしょ』と思えるようなことにまで踏み込んで取り組みます。木の上に秘密基地を作りたいといえば作らせるし、川に飛び込みたいといえば先生が率先して飛び込む。
なぜかといえば、これによって想定外の体験が生み出されるからです。子どもにとって遊びは予測不可能なものでなければなりません。どんなに想像しても思いつかないような何かが起こる。その何かからの学びこそが、子どもたちを一回りも二回りも成長させるのです」
これからの時代に必要とされるのは、誰もやっていなかったことに取り組み、これまでにない道を切り開いていく力だ。
その力を育むのに必要なのは、多少のリスクがあっても冒険を体験させることだ。みんなで宝の地図を見つけ出し、海賊と戦うことを決め、手製のいかだで湖を渡り、無人島で死闘をひろげるからこそ、想像力、勇気、共感力、友情などを大きく成長させることができる。
「できない子」が目立たない
こうした全員で行う冒険は「子どもの発達障害を消す」として別の視点からも注目を集めている。
発達特性は誰もが持つものであり、それが日常生活に問題を生じさせる場合に障害とされる。
生まれつき人の発達に差があるならば、工作なり、運動なり、園児が一斉に同じことをやれば、できる子とできない子の差が出るのは当然だ。
しかし、やまなみこども園の保育は違う。あらゆることを全員で背伸びをしながら探求することを掲げている。それゆえ、子どもたちはみんなで成功を勝ち取るために、友達の特性を理解し、できないことがあればフォローし、時には歩調を緩め、手を取り合ってゴールを目指す。
こういう環境があるので、できない子の存在が目立たなくなる。また、できないことでも、周りに支えられて背伸びしてやっているうちにできるようになる。
塩崎教授は言う。
「やまなみこども園では、発達特性がほとんど見られないというのは研究者の私が見ていても実感することです。
もちろん、発達障害の子は一定数いるので入園してくるんですよ。でも、やまなみこども園では、発達特性の強い子であっても、早ければ数日でそれが見えなくなるばかりか、子どもによってはできなかったことができるようになるんです。先生方が特別な取り組みをしているというより、園の環境がそういう現象を生んでいると私は捉えています」
ある女性の精神科医は、やまなみこども園には「多様性を幸福なものとする文化」があると考え、感銘を受けた。彼女はその文化を守りたいという一心で、長年にわたって私的に寄付をつづけている。
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