スマホを持たない中年男性が財布を忘れて出張した結果…周囲のありがたみを噛みしめつつ“どうにか事なきを得た”という話
先日「財布を家に忘れ、ほとんど金がない状態で出張をする」という経験をし、大変な目に遭った。改めて「地獄の沙汰も金次第」という言葉を思い出した。スマホ決済やクレジットカード、電子マネーなど色々あるこの時代、財布を忘れたくらいで地獄だなんだって大袈裟じゃない? そんなことあり得る? と思う読者もいるかもしれない。が、私はガラケー派であり、かつ、財布に身分証明書とクレジットカード、キャッシュカード、さらに交通系ICカードも一括して入れていたため、財布を忘れたら、一切の決済ができないのだ。【取材・文=中川淳一郎】
【写真】顔面蒼白…中川氏が財布を忘れたことに気がついた福岡空港行きの高速バス他
空港に着いた時には78円
財布を忘れたのに気付いたのは自宅のある唐津から博多に向かう高速バスの中だった。乗車前、喉が渇いていたので、バス停の脇にある自販機で飲み物を買おうと思ったのだが、予約済みだったバスが到着していたため、諦めた。思えば、バスは出発まで2分半あったのだから、その時に自販機へ向かっていれば、財布がないことに気付き、家に帰って電車で福岡空港へ行くということもできたのである。
空港行きのバスの中で焦ったものの、私の悪運は強かった。リュックの底にこぼれ落ちていたコインを集めたら、全部で1538円あった。バス代1200円と、博多駅から福岡空港駅までの260円はこれでなんとかなる。しかし、福岡空港に着いた段階で残った金額は78円である。羽田から目的地の神楽坂まで行くことはできない。
そこで一計を案じた。京浜急行の駅員に事情を話し、羽田から乗車したという証明書を発行してもらいなんとか乗せてもらう。そして渋谷に行き、私の会社の同僚に渋谷の改札で現金を渡してもらうのだ。その足で私のメインバンクの担当者に会い、当座の活動資金として10万円を下ろしてもらえば万事解決だ。
早速、銀行の担当者に電話をし、「キャッシュカードも通帳も身分証明書もありませんが、なんとかなりませんか?」と聞いた。一旦彼女は電話を切り、上司に相談。その結果、通帳と印鑑を紛失したため再発行の手続きをする、ということでなんとかお金は下ろせる、と言われた。本人確認については、これまで数年間直接会っているし、すでに私の個人情報をすべて先方は把握している。そして、通常の窓口対応ではなく、彼女が対応してくれることになった。
今度は同僚に電話し、500円玉と100円ショップで買った印鑑を持ってきてもらえないかを電話で相談した。すると「通帳をなくすと面倒くさいことになるから私が貸すよ」と、3日分の軍資金として、2万5000円を貸してくれることとなった。また、3日後には妻も東京に来るため、その際に財布を持ってきてもらえることに。
必ず渋谷で返します、なにとぞお願いします
これでなんとかお金の算段はついたとホッとした。ところが、そこから先は21世紀初頭の感覚は通用しなかった。というのも私は、2001年、泥酔し、持っていた巾着と中に入っていた財布を失ったことがある。地下鉄有楽町線の新富町で飲んでいたはずなのだが、なぜか終点の和光市駅からJ Rに乗り換えて一つ隣の朝霞駅の商店街で目覚めたのである。この時は、駅員に頭を下げ、事情を話したら返金することを約束したうえで、乗せてくれた。この経験から、今回も京急には乗車できるだろうと踏んでいたのだ。
だが、今回はいくら駅員に事情を話しても、それは叶わなかった。どうしたものかと悩んだ末、「交番で1000円貸してくれる」という話を思い出し、早速交番で相談したところ、「知り合いがいるのであればその人に助けてもらえばいい。警察は最後の手段」とにべもない。
しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。羽田まで誰かに迎えに来てもらっていては、もう仕事に間に合わないからだ。「必ず渋谷で返します、なにとぞお願いします!」と頼み込み、450円を借りた。78円はあるので、電車代の510円に足りるのである。
かくしてお金がないことの大変さを思い知るわけだが、ここで「1円を笑う者は1円に泣く」という言葉も思い出した。何しろ、福岡空港に着いても何も買えないのだ。お土産は当然のことながら、ペットボトルの飲料も買えない。ついに、30年ぶりぐらいに、噴水状で水が出る給水機の水を飲むことになった。冷たくてしみじみとウマい水であった。
羽田からは快適にバスで行きたかったが、最低限の交通費で行くしかない。思えばカネがあるだけで、少しだけの贅沢ができたわけである。
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