韓国「尹錫悦」前大統領に“無期懲役”判決の衝撃…大統領の命運を“選挙”ではなく“裁判”が握る「司法統治」の危うさ

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「朴槿恵弾劾」をめぐる既視感

 検察側が描いたシナリオの核心は、戒厳下で国会を封鎖し、尹氏が自身の政敵を拘束する計画にあったとされる。

 特に、核心証拠として引用された郭種根(クァク・ジョングン)前特殊戦司令官の証言は、先の憲法裁判所や刑事裁判で全体の筋書きは支持されたものの、逮捕の指示対象が「人員」か「議員」かという認識部分、上層部との通話経緯や指示表現の具体性、さらには尹氏による政治家の逮捕・射殺命令の有無などで供述が段階的に変化および拡張してきた。

 もっとも、同一状況について他の軍指揮官が、「議員を引きずり出せとの指示はなかった」と反対証言を行っており、刑事法廷では郭証言の信用性が主要争点となった。

 前707特殊任務団の金鉉泰(キム・ヒョンテ)大佐の供述も、部隊投入が国会封鎖を目的としていたとの主張を裏づける根拠として引用されてきたが、その後の証言では、国会内議員の逮捕について大統領からの命令は一切なかったと述べている。

 ここに既視感がある。朴槿恵弾劾と後の刑事有罪である。

 当時、「国政壟断」の核心証拠とされた一つが、朴氏の知人である崔順実氏が大統領演説などの機密文書をタブレット機器で受信し、国政に介入したという構図だった。その認定の主要根拠となったのが側近秘書官・鄭虎成の証言である。彼が崔に文書を送ったという供述は、国政介入の直接証拠として採用された。

 ところが後の刑事裁判で行われた国立科学捜査研究院のデジタル鑑定は、崔氏が機密文書などをタブレットを介して直接受信していたとする構図は、技術的に裏付けることができないと結論づけられた。

 また、最大の刑量を占めた「贈収賄罪」では、大手企業から直接受け取っていない財産であっても、大統領と関係のある第三者を介して提供された場合には、従来より広く「贈賄の対価」と見なされた。法理上の「不正な請託(黙示的請託)」の概念も、企業からの明示的な要求や物理証拠がなくとも、状況や関係性から利益供与がなされ、朴氏が実質的に利益を享受したと認められた。

 もちろん朴政権をめぐる不正疑惑全体が虚構だったわけではない。だが憲法秩序破壊の象徴とされた核心証拠の確実性は、後に大いに揺らいだ。

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