世界が称賛する「クレボ・ステップ」の衝撃…日本選手団メダルラッシュのなか冬季五輪“通算10個目の金メダル”を獲得した「ノルウェーの英雄」の凄さに迫る
ミラノ・コルティナ五輪を日本の民放テレビで見ていると、スノーボード、フィギュアスケート、スピードスケート、スキー・ジャンプなど、日本選手がメダルを獲得した競技・選手ばかりが話題にされている。それを見ると今回の冬季五輪ではすっかり日本選手が主役だったようにさえ感じる。たしかに過去最多のメダルを獲ったのだから、日本選手団が大きな成果を上げたのは間違いない。
ただヨーロッパの人に「ミラノ・コルティナ五輪で最大のヒーローは誰だったか」と尋ねたら、必ずしも日本選手の名前が真っ先にあがるとは限らない。おそらく「クレボ」の名を叫ぶ人が相当数いるのではないだろうか。【取材・文=小林信也(作家・スポーツライター)】
【写真】金メダルを枕に3つ並べ……ミラノ五輪で無双したクレボ選手の圧倒的ドヤ顔
クレボ・ステップ
ヨハンネス・ヘスフロト・クレボ(ノルウェー)は今大会、クロスカントリースキー(距離競技)の10キロ+10キロスキーアスロン、スプリント・クラシック、10キロ・フリー、男子30キロリレー、男子団体スプリント・フリー、さらに21日に行われた男子50キロ・マススタート(クラシカル)でも優勝し、全6種目完全制覇を達成した。一大会で6個の金メダルを獲得し、過去最多のエリック・ハイデン(スピードスケート)の5個を更新した。クレボは21歳で初めて出場した2018年平昌五輪で3個の金メダルを獲得、2022年北京五輪でも2個、そして今回の6個を合わせて通算獲得数も11個となり、冬季五輪史上最多記録(これまでは8個)を更新した。
クレボの活躍は深夜、NHK総合テレビの実況中継で放送されたから、それを見た視聴者の間では話題となった。とくに「クレボ・ステップ」と呼ばれる彼独特の滑りが鮮烈な驚きと衝撃を与えた。
クロスカントリースキーの選手は通常、上り坂では平行に保ったスキーを交互に滑らせて上る。斜度がきつい場合はスキーを逆ハの字にし、エッジを効かせて上る。ところがクレボは滑らない。まるで、スキーではなくシューズを履いて雪のない坂道を上るかのように、膝を高く上げ、力強く雪面を踏みしめて前に進むのだ。足下を見ず、クレボの走行姿勢だけ見れば雪の上とは思えない。ガシガシと、走っている姿そのものにしか見えない。
その独特の走法は、考案者である祖父からの秘伝。いわばクレボ家の一子相伝の技のようなものと言われる。もちろん、他の選手も導入を試みているが、そう簡単に真似できないところにクレボの無敵の強さの理由がある。
「相当な脚力、上半身と腕の力と持久力が必要でしょうね」
と教えてくれたのは、冬季五輪に4度(リレハンメル、長野、ソルトレークシティー、トリノ)の出場経験を持つ元クロスカントリースキー女子日本王者の横山寿美子さんだ。
「30メートルとか短い坂ならまだしも、100メートルくらいの長い坂をクレボ・ステップで上ったら、乳酸がたまってその後のレースに影響が出るでしょう。そうした悪影響を感じさせないところにクレボの凄さを感じます」
このような滑り方を日本選手たちは発想した経緯はないのだろうか。
「夏のトレーニングで、クレボ・ステップのような動きで上る練習はよくやります。夏ですから雪のない坂です。でもその走り方を雪の上ですることは考えたこともありませんでした。私たちクロスカントリースキーの選手はどうしても〈スキーを滑らせる〉という強い思いがありますから」
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