「朝ドラ」があえて描かなかった重要シーンを考察する 「ばけばけ」錦織、衝撃の吐血シーンの意味
なぜ、見送らなかったのか
錦織は江藤から「そろそろ錦織校長の誕生に向けて動くとするか」と告げられる。第89回(2月5日)のことだった。錦織は第84回(1月29日)、ヘブンが松江に居やすくするためにも校長になろうと決め、江藤にそう伝えていた。
錦織は江藤の「動く」という言葉を受け、生徒たちにも「私が校長になる」と告げた。併せてヘブンの教育は高度だと説いた。さらに帝大を出た庄田と自分が付いているとも。受験に向けて大船に乗ったつもりでいろと話したのである。
庄田は第85回(1月25日)、一度は断った教師の口を引き受けた。ヒロインでヘブンの妻・松野トキ(高石あかり)の親友・野津サワ(円井わん)と、松江で所帯を持ちたいと考えたからだ。だが、サワは庄田の求婚を断る。
一方、錦織は生徒たちに対し、過去の粉飾というウソをずっと吐いてきた。もうウソは吐きたくなかったはずだ。ところが、校長の話が流れそうになる。それでは再びウソを吐いたことになってしまうから、焦った。第92回(2月10日)だった。
校長の座が風前の灯火になったのはヘブンが熊本へ転居することになったから。江藤から聞かされた。続けて江藤は「君は先生の隣で何を見ちょう」と辛辣な言葉を浴びせてきた。
ここで錦織は悟ったはずだ。江藤による自分の評価はヘブンの通訳・世話役としてであり、教師として判断されているわけではなかった。なにしろ江藤と錦織はヘブンの絡まない教育の話をしたことが1度もないのである。錦織の命運はヘブンにかかっていた。
錦織は校長内定を取り消されたのか、辞退したのか。制作側が当初、考えたプランの1つは、江藤が錦織を切るという筋書きだったようだ。それを裏付けるのが、NHK財団が発行する同局の番組PRサイト「ステラnet」である。
同誌は松江編最終日の第95回が放送された2月13日付で、佐野のインタビューを載せた。それは江藤が錦織を切り捨てたことを前提としている。
──江藤知事があれほど信頼し、校長にまで推していた錦織をあんなにあっさり切ったのは、意外でした。
佐野「そこは、江藤のダークな1面というかあるいは、まあ人当たりはよいけど腹の中は分からないという、松江人あるあるかもしれません(笑)。リアル松江人の僕が演じると、それが特に出ていたかな。あ、松江の人のせいにしちゃいけませんね、僕の悪役好きの部分が特に出てしまったかな」(「ステラnet」、佐野は松江出身)
もっとも、このインタビューに該当する場面はなかった。制作者がカットしたのか。いずれにせよ制作者は江藤による錦織切りという筋書きを採用しなかったことになる。白紙の状態で考えることを続けたい。
ヘブンの熊本行きを知った錦織は、本人から松江を出たい理由を「冬、寒い、地獄」と聞かされる。すると、教室以外にもストーブを据えると約束した。
第93回(2月11日)、錦織は転居する本当の理由はほかにもあると考える。本の題材が松江になくなったことにあると思い、「虫の本を書きましょう」と提案した。
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