幼少期の入院が生んだ「白衣の天使」幻想 妻とは看護師合コンで結婚するも…39歳夫を襲う“嫉妬”の正体

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先輩から合コンに誘われ…

「大学を卒業するころ、祖母が亡くなりました。僕は就職が決まっていた。母は祖父のめんどうを見ながら暮らしていくから、あなたはあなたの人生を大事に生きていきなさいと言ってくれました」

 そこそこ大手の機械関係の会社で、社会人としての第一歩が始まった。不器用ではあるが、実直に粘り強く仕事をしていく謙二郎さんは、その謙虚な性格もあって周りから好かれた。

「3年目くらいだったかな、先輩から合コンに誘われたんです。学生時代、つきあっていた人はいたけどお互いに社会人になることで自然消滅して、それきり誰ともつきあっていませんでした。仕事で一人前になるまでは彼女はいらないと思っていたけど、先輩が『彼女くらい作れよ。生活が楽しくなるぞ』って。渋々ながら参加しました」

 相手の女性陣は全員、看護師だった。謙二郎さんの胸が高鳴った。隣に座った女性に、子どもの頃の病気の話をしたら、親身になって「寂しかったでしょう?」と共感してくれた。治ってよかったですねと言ったその笑顔に、謙二郎さんはクラクラしたという。

「彼女の笑顔は、当時、いつも優しくしてくれた看護師さんと同じように、すべてを受け入れてくれる雰囲気をもっていた。その瞬間、僕は彼女に吸い込まれるように恋をしました」

 めぐみさんというその彼女は、謙二郎さんより2歳年上だった。冷静でありながら、なんともいえない優しい口調によって、彼は一気に子どもに戻ったような気さえしたという。

「連絡先を聞いて、すぐ次の日にデートに誘いました。先輩にも報告したら喜んでくれて。彼女たちは全員、性格がいいんだよって。実は先輩の奥さんが看護師で、性格のいい子を集めてもらったと。『特にきみには誰かと交際できたらいいなと思っていたから、うれしいよ』と言ってもらいました」

 それから彼とめぐみさんのつきあいが始まった。彼女になら何でも言える。彼女は僕を裏切らない。半年ほどで結婚を決めた。26歳になったばかりだった。まだ早いのではないかと周りには言われたが、彼はまっすぐに突っ走った。

「誤算」

 ただ、ほんの少し誤算があった。彼は結婚後、めぐみさんが仕事を辞めると思い込んでいたのだが、めぐみさんにその気はまったくなかったのだ。結婚式直前にめぐみさんの気持ちを知り、彼は一瞬、迷ったという。

「僕が彼女に仕事をやめてほしかったのは、家庭に入ってほしいという意味ではないんです。彼女のあの笑顔や優しさが、僕以外の人に向けられるのが耐えられなかった。でも、そんな本音を彼女には言えなかった。彼女、ときどき患者さんの話をするんですが、そういうときの笑顔や表情が本当にきれいなんです。僕自身に、そういう笑顔が向けられたことはないような気がしていた。自分でもなぜそんないじけたような考え方をするのかわからなかった。嫉妬みたいなものでしょうか」

 職務上の笑顔のほうが、結婚しようと思っている自分に向ける笑顔よりずっと美しい。それは彼女の責任感や仕事への情熱のなせる業なのではないだろうか。だが彼には、それが寂しかったのだろう。彼女の笑顔を独占したかったのかもしれない。

「彼女が仕事を続ける意志は強かったから、もちろん僕が折れました。彼女は『家事はがんばるから』と言ってくれたけど、家事なんてどうでもいいんです。僕だって家事はできる。めぐみの笑顔は僕だけのものだと本音をぶちまけたかったけど、やはりそれは言えなかった。ただの変な人みたいだから」

 結婚生活は特に問題なく進んでいった。だが時間がたつうちに、何かが微妙にずれていくのがわかった。

 ***

 謙二郎さんが感じた妻との「ずれ」は、思わぬ形で解消されることに……。その顛末は【記事後編】で紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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