正社員を諦め夫の中国赴任へ同行した35歳「駐在妻」、孤独なワンオペ育児の末にメンタル崩壊 夫の「衝撃のひと言」がトドメに

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帰国後の離職率50%

「これは美咲さん一家に限った特殊なケースではありません。その背景には、個人の努力だけではどうにもならない仕組みの問題が隠れているのです」

 と、前川さんは語る。

 今回のケースでいえば、まずは会社側の労働体制に大きな無理があった。実は海外拠点では、日本の労働ルール(労働基準法)が守られないことが多く、過酷な環境で心身のバランスを崩してしまう駐在員は決して珍しくないという。

「実際、ある調査によると、9割以上の企業で、任期の途中で耐えきれずに帰国してしまう“途中帰任”が起きています。さらに、帰国してから2年以内に会社を辞めてしまう人は、なんと50%にものぼるという衝撃的なデータもあります。せっかくのグローバル人材を、海外赴任をきっかけに失うことは、会社としても大きな痛手のはず。

 企業は、日本にいるときと同じように、社員が健康に働けるサポートを徹底しなければなりません。現地での大きなストレスを考えれば、外部の専門家に相談できるメンタルヘルスケアの仕組みを整えることは、もはや企業の責務といえるでしょう」(前川さん、以下同)

 また同時に、「一緒に現地に行く妻や家族へのケア」も決して欠かせないもの……と前川さん。

「慣れない異国の地で孤立しがちな家族の不安をキャッチし、いつでも相談できる場所を準備しておくことが急がれます」

「家族がバラバラになるために海外へ行ったのではない」――。そんな悲劇を繰り返さないためにも、働く人とその家族が、心と体の健康を何よりも大切にできる環境づくりが、今まさに求められている。

※本記事で紹介した事例は、実際にあった出来事を基に、個別事案が特定されないようプライバシーに配慮し、登場人物や具体的な状況に一部変更を加えて再構成したものです。

関連記事【「奥さんも会社を辞めてオランダに同行して」夫の会社から要請…“私って何なんだ”32歳駐在妻の「自分を見失った日々」】では、夫の会社から自身のキャリアを捨て、世話係になれと伝えられた妻の葛藤を描いている。

前川由未子さん
金城学院大学国際情報学部 専任講師。臨床心理士、公認心理師。産業組織領域を専門に、これまで5000人以上の支援に携わる。2025年、海外居住者のメンタルヘルスケアを提供する(株)Taznaを設立。

取材・文/荒木睦美

デイリー新潮編集部

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