正社員を諦め夫の中国赴任へ同行した35歳「駐在妻」、孤独なワンオペ育児の末にメンタル崩壊 夫の「衝撃のひと言」がトドメに

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逃げ場ない孤独

 片や美咲さんも、慣れない土地での暮らしに、どんどん追い詰められていった。産後のマタニティーブルーに加えて、治安や衛生面への不安……。「この子を守らなきゃ」というプレッシャーから、美咲さんは外出を避け、家の中に引きこもるような毎日になっていったという。

 誰とも話せないまま、異国で繰り返される過酷な「ワンオペ育児」。美咲さんにとって、夜遅くに帰ってくる夫だけが唯一の心の拠り所だった。だが、仕事でボロボロになって帰ってくる聡さんにとって、自分を待ち構え、隙あらば依存しようとする妻の存在はいつしか「重荷」に変わってしまったのだ――。

 合流して3か月が過ぎたころ。聡さんの口から出たのは労いの言葉ではなく、あまりにも残酷なひと言だった。

「もう、日本に帰ってくれないか」

 美咲さんや息子さんの存在そのものが、聡さんには耐えられない負担となっていた。思いもしなかった言葉に、美咲さんは「頭が真っ白になった」と振り返る。

 追い詰められた状況で帰国し、前川さんのもとに相談にきた美咲さん。詳細を聞くと、ある背景が見えてきた。それは、「美咲さんの依存心だけが問題なのではなく、聡さん自身も過労によって心身が限界に達し、まともな判断ができなくなっている可能性がある」こと。

 そこで、前川さんは「聡さん自身が会社に対して仕事の負担軽減を相談できないか」と提案した。だが、彼の答えは「ノー」だった。

 これも「駐在員あるある」なのだが、「現地で弱音を吐くことはキャリアに響く」と恐れるあまりに、自分の限界を超えても頑張りすぎてしまうケースがあるのだ。任期という「見えるゴール」があるからこそ、「今さえ乗り越えれば」と無理を重ねてしまう。

 それどころか聡さんは、その提案すらも「妻が自分のキャリアの足を引っ張ろうとしている」と否定的に捉えるようになっていったそうだ。

「一方で私は、美咲さんが夫に依存しすぎないように、現地のコミュニティに加わることや、家事・育児の手を適度に抜くことなどをアドバイスしました。彼女もそれに応えようと、自分を変える努力を重ねたのです。すべては“夫を支え、家族3人で生きていくため”でした」(前川さん)

 しかし、その思いは聡さんに届かなかった。極限まで追い詰められた彼は、もう美咲さんの歩み寄りを受け入れられる心理状態ではなかったそうだ。

「俺の仕事の邪魔をするな!」「ついて来いなんて言ってない」「頼むから帰ってくれ」……。

 投げかけられるのは、思いやりのかけらもない言葉ばかり。話し合おうとするほど溝は深まり、美咲さんの心もついに限界を迎えた――。

 家族が合流してからわずか半年後、二人は離婚することになった。美咲さんは幼い息子を連れ、逃げるように日本へ帰国。そして、美咲さんらを追い返してまで守ろうとした仕事はというと……結局、聡さんはほどなくして心身を壊し、休職に追い込まれることとなったそうだ。現在は養育費の支払いも滞っている状態であるという。

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