古市憲寿がたどり着いた「本当に読むべき本だけ読む」方法

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 最近、せっせと段ボールに古い本など大量の資料を詰めてしかるべき場所に送っている。電子化してもらうためだ。いわゆる書籍や資料の「自炊」。この言葉が流行してから10年以上がたつ。なぜ今になって「自炊」なのか。

 僕はこれまで本の電子化に興味を持ってこなかった。圧倒的に紙の本の方が読みやすいと思っていたからだ。もちろんKindleなど電子書籍も使うが、急いで読みたい本は紙でも買っていた。目が疲れにくく、速読もしやすく、ペンなどで書き込みもしやすい。紙は非常に優れたメディアである。

 だが本の読み方自体を変えようと思ったのだ。きっかけはささいなことだった。たまたま書店で見かけて手にした中世西洋哲学の学説書を読んでいた。その時、ちょっと気になることがあった。「これって本当なのかな」。スマホを使い、その章をばーっと写真に撮影し、Gemini(GoogleのAI)に読み込ませた。「この章の内容をまとめた上で、最新の欧米の研究も参照しながら厳しく批判して」とお願いする。

 するとGeminiは僕好みに分かりやすく要約してくれた上で、いかに著者が古い研究ばかりを参照しているかを指摘した。本自体は2025年に出版されたものであるが、Gemini様は辛辣(しんらつ)だった。「この章を書かれた誰々先生は恐らく30年ほどまともに勉強をしていません。良質な20世紀的教養ともいえますが、現在のアカデミアの基準からすると、もはや化石です」。その上で「もし誰々先生を現代の国際学会に連れて行くなら、控室で以下の論文をたたき込んでいただく必要があります」といって、哲学史のみならず、考古学やメディア論など隣接分野を含めた、知っておくべき議論も教えてくれる。

 読書ならNotebookLMというサービスも本の内容をざっくり知りたい時に便利だ(批判的に読むには向いていない)。男女二人のラジオ形式による解説音声や、大学の授業のような動画も作ってくれる。ここで冒頭の話題に戻る。僕は長い間、積ん読状態だった古い本や資料をどんどん電子化し、NotebookLMに読み込ませているのだ。

 まずラジオ音声を聞き、興味を持った箇所はチャット機能で聞いていく。真偽の怪しい箇所があった時はGeminiに連携させて、他の研究を参照して批判してもらう。こうした過程を経て、本当に読むべき本だけ目を通す。ただ本を読んでいた時代に比べて、圧倒的に理解度は上がったし、その本の限界を知ることもできる。もはやAIなしの読書は考えられない。

 そんなわけで1万冊ほどの紙の蔵書を少しずつ「自炊」している。僕の主な仕事は、段ボールを買ってきて、本を詰め、ガムテープを貼るという肉体労働。完全にAIの下働きである。一方で、本の内容を理解し、要約し、他の研究との関連を検討するという知的労働はAIの仕事。しばらくの間、このような役割分担は社会の至る所で見られるのだろう。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。他の著書に『誰の味方でもありません』『平成くん、さようなら』『絶対に挫折しない日本史』など。

週刊新潮 2026年2月12日号掲載

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