ナンセンスでも未来を語った高市自民と“モルヒネ”しか説かなかった中道 キリギリスより「アリ」を求めてしまう愚かさ

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モルヒネの効用ばかり説いた

 ところが、ほとんどの野党は、未来への展望をほとんど示さないまま、「物価高対策」として消費税の減税を訴えた。消費税は年金や医療、介護などの社会保障制度を支える安定財源なのに、一時的に食いつなぐためにそこに手をつけたら、冬の食糧がないキリギリスへの道まっしぐらではないか。

 日本経済新聞社と日本経済研究センターが、経済学者が対象の「エコノミクスパネル」で消費減税の影響を聞いたところ、食料品の消費税率をゼロにするのは日本経済にとって「マイナス面が大きい」という回答が88%に上った。「需要を喚起してさらにインフレが加速する可能性が高い」(東京大の佐藤泰裕教授)、「減税に踏み込めば社会保障や財政の持続可能性に不安が生じる」(一橋大の陣内了教授)といった声が相次ぎ、「物価高対策」としての効果に大きな疑問が投げかけられた。

 結局、効果が望めないうえに、財政悪化につながるとして市場から警戒されるなら、「責任ある積極財政」と同じで、高市総理の主張とのあいだに争点をつくることはできない。

 とくに中道改革連合は、高市内閣の積極財政を批判しながら、みずからは食料品の消費税率を恒久的にゼロにすることを主張したが、いかがなものか。野田佳彦共同代表は「税金をいっぱい使って、足りなかったら借金をして、将来の世代のポケットに手を突っ込んで使うのが積極財政」と批判したが、同じ口で食料品の税率をゼロにすべきだと説いた。食料品の税率ゼロもまた、「将来の世代のポケットに手を突っ込んで使う」ことになりかねない以上、どうにも説得力がない。

 英紙「タイムズ」に「はっきり話し、なにもいわない」と皮肉られた高市総理の演説に対抗するには、積極財政とまったく異なる物価高解消と経済成長の道筋を具体的に示し、「はっきり話し、しっかり説明する」しかなかった。そうして有権者がキリギリスにならず、アリのように冬でも豊かにすごせる道筋を、できるだけ具体的に示すしかなかった。

 だが、それをしなかったから、どんなにナンセンスであろうと力強く将来像を語った高市旋風に飲まれてしまった。中道改革連合について別の言い方をすれば、有権者は病気の根本治療をして未来の幸福を得たいのに、モルヒネの効用ばかりを説いてしまった。それでは勝てるはずがない。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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