弁護士芸人の漫談「弁論」人気のワケ 冤罪事件も生活保護の問題点も「笑い」に昇華させる唯一無二のライブ

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驚きと信頼感

 こたけ正義感はこの無人の荒野に降り立って、その土地を見事に開拓してみせた。社会的な問題を扱っているのに、堅苦しくないし、説教臭くないし、押し付けがましくもない。あくまでも笑いを生むための手段としてナチュラルにそういうテーマを取り上げている。

 だからこそ、「弁論」はお笑いファン以外の多くの人の心にも刺さった。今まで誰もやっていなかったことを高いレベルで成し遂げたことで、お笑いの世界の外側にも訴えかける力を獲得した。

 多くの人が「弁論」を絶賛するのは、単に面白いからというだけではない。そこには、今まで見たことのないものを見せてもらったという驚きや、扱いの難しい問題を専門的な視点でわかりやすく語ってくれたという信頼感がある。

 インターネットを通して、複雑な背景のある社会問題が極端に単純化されて語られがちな状況の中で、こたけ正義感は専門家としての正確さを保ちながらも、一般の人々に届く言葉で話ができる貴重な存在なのだ。

 彼の語りは、特定の政治的立場に偏っているわけでもない。あくまでも法律と論理に基づいて物事を考える姿勢が貫かれている。彼が党派性を超えた普遍的な問題意識を持っているからこそ、そのパフォーマンスは幅広い層に伝わるものになっている。

 笑いは現実から目をそらすためのものではなく、むしろ現実を正面から見つめるための入口にもなり得る。そのことを現役の弁護士という立場から漫談というシンプルな形式で証明してみせた点に、このライブの本質的な価値がある。

 こたけ正義感の「弁論」は、一過性の話題作にとどまらず、日本のお笑いの地平を押し広げた試みとして、今後も長く語られていくはずだ。

ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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