「24時間高血圧」で心血管リスクが約2倍に 昼間の数値が正常でも「夜間血圧」が急上昇する人の特徴とは
体調のバロメーターとして広く活用されている血圧。先ごろ日本高血圧学会が発表したガイドラインでは、あらためて「目標値」が示された。だが、日中に家庭や医院で測定した値が正常だからといって安心はできない。本当に恐ろしいのは「夜間高血圧」なのだという。
※本稿は「週刊新潮」2026年2月5日号の特別読物【4300万人の高血圧患者必読! 日中の数値は正常でも…恐ろしい「夜間高血圧」対策(科学ジャーナリスト・緑 慎也)】の一部を再編集したものです。
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「月光仮面」といえば、白いマントを翻し、どこからともなく現れる正義の味方である。その信条は「憎むな、殺すな、赦(ゆる)しましょう」で、悪人を懲らしめても傷つけすぎず、命を奪うことまではしなかった。
一方で最近の医師らが注目する「仮面」も、やはり深夜の静寂の中にやって来るのだが、月光仮面と異なるのは人を傷つけ、時に命を奪ってしまう点である。
その正体は「仮面夜間高血圧」という。
血圧は通常、睡眠中は日中よりも数値が低くなる。副交感神経が優位となって心臓と血管を負担から解放し、目を覚ましていた間の疲れを癒すためだ。ところが、夜間に血圧が下がらないと、まるで夜通しエンジンをかけられた車のように、心臓と血管は疲弊していく。
一般に自宅で測る「家庭血圧」より、病院の診察室で測る「診察室血圧」の方が高くなる傾向があるため、高血圧か否かの診断基準は高めに設定されている。2025年に改訂された最新の基準では、家庭血圧125/75mmHgに対して診察室血圧は130/80mmHg。そのいずれかが基準値を上回っているとなれば、多くの場合、高血圧の治療が始まることになる。
そうした際、この「仮面夜間高血圧」は実に厄介だ。何しろ、診察室では「仮面」を被って問題ないかのように装い、基準値以下を示す。日中の家庭血圧もまた同様で、牙を剥くのは夜である。
2020年に発表された「日本人における家庭血圧の心血管予後推定能に関する研究」(J-HOP研究)によれば、4310人の調査対象者のうち夜間血圧を測定していたのは2745人。その中で、降圧薬を服用するなどして朝晩の血圧が正常でありながら、夜中に120/70mmHgを超える「仮面夜間高血圧」の人は26.7%にのぼったという。ちなみに夜間の基準値は、日中よりも低く設定されている。
夜間に血圧が上がる理由
これらの人々は、一日の血圧がすべて正常範囲に収まる人に比べ、心筋梗塞や脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)などの心血管イベント(病的事象)のリスクが約1.6倍となり、また昼夜を問わず、24時間ほぼ高血圧状態の人の場合だと約2倍に跳ね上がることが明らかになっている。なお被験者の夜間血圧は、自動計測機能を持つ家庭血圧計により深夜2時、3時、4時にそれぞれ測定されたものである。
この研究を主導した日本高血圧学会理事長の苅尾七臣・自治医科大学教授は、
「夜間高血圧は未来のリスクを最もよく映す鏡です。昼間の血圧が正常だからといって安心することはできません」
と警鐘を鳴らす。
なぜ夜間にだけ血圧が上がるのか。苅尾教授によれば「夜に摂取した塩分の影響」「ストレスによる自律神経の乱れ」「夜間頻尿」などの要因とともに、降圧薬を服用している場合、日中は効いても「夜間は効果が薄れて血圧が再上昇する」ことも考えられるという。
「最も危険なのが睡眠時無呼吸症候群が見逃されている場合です。眠っている間に何度も呼吸が止まり、体内の酸素濃度が低下すると、窒息を避けようとして交感神経が強く働きます。その結果、心拍数と血圧が急上昇するのです」(同)
夜間の血圧には3つのパターンがある。正常なのは10~20%下がる「ディッパー」(dipは「下がる」の意)で、他に低下の度合いが10%未満の「ノンディッパー」、そして日中より高くなる「ライザー」(「上がる」のriseより)がある。
2009年から苅尾教授らが続けていた「日本人における自由行動下血圧追跡研究」(JAMP研究)で、それぞれのパターンと心血管イベントとの関連について調査したところ、当然ながらディッパーよりノンディッパー、ノンディッパーよりライザーにおいて循環器疾患のリスクが高かった。
とりわけ顕著な違いが出たのは、心臓のポンプ機能が弱まり必要な血液を全身に送り出せなくなる心不全に関してである。心不全は、むくみや息切れのみならず臓器への血流不足を招き、重症化すると突然死に至る場合もあり、ライザーはディッパーに比べ2.45倍もリスクが高まるという結果が得られたという。
もっとも、「ディッパー」にもハイリスクが潜んでいる。「早朝高血圧」の一種であり、起床後1時間以内に血圧が急激に上がる「モーニングサージ」(surgeは「急上昇」の意)という現象は、その典型である。
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