「ここに置いた女性の遺体がない!」 昭和史に残る「ホテル・ニュージャパン」大火災…警視庁捜査一課長が気づいた“異変”の正体とは
原因はタバコ
これほどの災害を招いた根本原因は何か――それは1本のタバコである。938号室に宿泊していた英国人ビジネスマン(24)は泥酔して部屋に戻り、火のついたタバコをベッドの枕元付近に放置したまま寝入ってしまった。タバコの火はベッドに移り、次第にその内部を燻焼させる。この時点で気づけばまだ何とかなったのかもしれないが、泥酔した上での睡眠である。やがてベッドの表面から小さい炎が上がり……。
後に、東京消防庁の調査課が行った消防鑑識(火災の原因調査)では、938号室内の洗面台に、水差しが置いたままになっていた。よく見ると、ふたを開けた部分が蛇口にひっかかったままになっている。
英国人ビジネスマンは急いで火を消そうと思い、水差しのふたを開け、蛇口に突っ込んだがそれが抜けなくなってしまい、そのままになってしまったものと推定された。
そして、枕元の近くから1本の英国製タバコの燃えカスも発見された。たった1本のタバコが、多くの被害者の人生を狂わせてしまったのである。
警視庁捜査第1課長や地域部長を歴任し、晩年はコメンテーターとして活躍した田宮榮一さんは火災が起きた昭和57年2月、鑑識課長だった。同月末に捜査第1課長となり、業務上過失致死傷事件として、ニュージャパン火災の捜査を継続することになる。
〈死体の検視は芝増上寺の葬祭場で行われた。検死班、身元確認班、遺体引継ぎ班など役割分担に応じ班編成が行われた。これは刑事部の総力を挙げての取り組みだった。運ばれた遺体は祭壇上に並べて安置され、番号が付されて作業が始まった。そのとき、
「ここに置いた女性の遺体がない!」
という叫び声が響いた〉(田宮氏著『警視庁捜査一課長 特捜本部事件簿』角川書店より)
改めて確認しても、遺体の数に変化はない。よく調べると、女性の遺体はある男性の遺体の横に並べられていた。男女は婚約者同士だった。遺族の要望もあり、男性の横に移したのだが、事情が分かると田宮氏は「誰が?」と詮索することはしなかったという。
〈遺体の何体かは解剖に付された。当夜の宿泊客には外国人客が多く、解剖することに決められた女性の遺体の一つは台湾国籍だった。同国の風習からして、遺体を解剖するなどとんでもないことだと近親者から猛烈に抗議されたが、ここは日本だ。日本の法律に従って欲しいと説得し、やや強引に解剖した。
その結果、女性が妊娠していることがわかり、お腹の子に対しても補償されることになったが、遺族にしてみれば補償云々の問題ではなかったろう。〉(前掲書より)
[2/3ページ]

