別れ際に「リスカ写真」を送り付けてきた元カノと同窓会で再会 変わらぬ美貌、20年ぶりの会話は盛り上がるも…【川奈まり子の百物語】

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不穏な別れ際

 実はこのとき浩一さんは、ユミと彼とが和やかに対話できていることに、密かに驚いていた。
 
――もう僕を恨んでいないのか?

 大学3年のとき、ユミは彼に婚約を迫り、彼が曖昧な言葉で逃げることを許さなかった。尻込みすると激昂して泣きわめき、揉めた。

 結局、彼がユミに愛想を尽かして別れたのである。
 
 彼に振られた後のユミの病みようは酷く、リストカットした血まみれの手首の写真を送り付けられたこともあった。

 その写真の件については卒業直前にユミから謝罪されたのだが、彼にとってもトラウマになっていた。

 けっして再会したい相手ではなかったのだ。

 ユミが平気で同窓会に出てきていることさえ、彼にとっては驚きだった。

 同窓会が終わると、ユミは連絡先を交換しようと言った。

「家が近いんだし、また会おうよ」と誘われて浩一さんは頷いたが、心の中ではまだ違和感が拭えずにいた。

 しかし、遺恨が無くなっているなら、それに越したことはないと考えた。
 
 ユミは美しい上に頭の回転が速く、情緒が安定しているときの彼女は、面白い話し相手、刺激的な遊び相手だったものだ。

寝落ち

 同窓会からほろ酔い加減で家に帰ると、あやめがリビングで画用紙に絵を描いていた。

「パパ、おかえりなさい。おばさんは?」

「おばさん?」

「パパと一緒に来たおばさん。どこに行ったの?」

 浩一さんは凍りついた。あやめの言葉はいつも唐突だ。

「どんなおばさん?」

「髪の長いおばさん。玄関まで、パパの後ろについてきたでしょ」

 浩一さんは笑ってごまかした。

 ユミのことか? いや、そんなはずはない。ユミは元気に帰っていった。

 あやめが眠ると、浩一さんは地下のオーディオルームへ行った。

 この部屋は防音完備だ。彼は音楽映画が好きで、特に『セッション』というアメリカ映画がお気に入りだ。ジャズドラマーに憧れる青年の感動的なビルドゥング・ストーリーなのだが、劇中に流れる音楽の数々も素晴らしいのだ。

 スピーカーから流れるジャズに全身を心地よくゆだねていたところ、モニターに画面にノイズが走った。同時に、スピーカーから低い囁き声が。

「……浩一さん……」

 美紀の声のような気がした。

 しかし一瞬のことで、アルコールも入っており、気を取り直したときには画面も正常に戻っていたので、寝落ちして夢を見たのだろうと彼は思った。

――― 

 改装した実家のオーディオルームで、若くして亡くなった妻の声が聞こえた……?【記事後編】では、元カノとの再会のその後を語っている。

川奈まり子(かわな まりこ) 
1967年東京生まれ。作家。怪異の体験者と場所を取材し、これまでに6,000件以上の怪異体験談を蒐集。怪談の語り部としても活動。『実話四谷怪談』(講談社)、『東京をんな語り』(角川ホラー文庫)、『八王子怪談』(竹書房怪談文庫)など著書多数。日本推理作家協会会員。怪異怪談研究会会員。2025年発売の近著は『最恐物件集 家怪』(集英社文庫8月刊/解説:神永学)、『怪談屋怪談2』(笠間書院7月刊)、『一〇八怪談 隠里』(竹書房怪談文庫6月刊)、『告白怪談 そこにいる。』(河出書房新社5月刊)、『京王沿線怪談』(共著:吉田悠軌/竹書房怪談文庫4月刊)

デイリー新潮編集部

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