イジメ動画は「大衆の最大の娯楽」 拡散に加担すれば法的な責任を負うリスクも

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悪質な動画が作られたら……

 軽はずみな“正義”の代償としては、決して安い金額ではない。

「たとえ匿名のアカウントであっても、開示請求すれば身元が判明する。ネットでの言動も、絶対に匿名ではないことを頭に入れておくべきです」(浦川氏)

 ネットニュース編集者の中川淳一郎氏は、あきれつつこう語る。

「ネットリンチに加担するのは、自分が法的な責任を負う可能性に思い至らないバカばかりですよね。ある配信者は動画を回しながら、高校や加害者の自宅に突撃していました。高校は建造物侵入罪などで被害届を出した方がいいと思います。こういうやからに対する抑止力になるでしょうから」

 AI時代ゆえの危うさも指摘する。

「例えば、いじめられている生徒が加害者であるかのように見せる、悪質な動画が作られたらどうなるか。加害者に私刑を加える現在の風潮を思えば、いじめられている側がさらし者になりかねないのです」(同)

 作家の橘玲氏は、まず過去と現在の違いを強調する。

「これまでは“これは誰なのか”“どんな人なのか”といった人々の好奇心を満たす役割は、週刊誌などのメディアが担ってきた。ただ、メディアの場合には“ここまではいいけど、ここから先はまずい”という自主規制が利いたし、やり過ぎた場合には批判もされてきました。ところが、そうした役割がメディアからSNSに代替されると、規制がないので歯止めが利かなくなってしまうのです」

 ネット時代ならではの変化もある。

「昔なら、学校で問題になって加害者が停学になり、それが地域社会のうわさとして広まる、ということで済み、日本中が知るなんてあり得なかった。また、動画や写真はデジタルタトゥーとして一生消えません。これをどうするのか、10年以上前から議論されていますが、答えはありません」(同)

最大の娯楽

 そして、問題はやはり正義にあるという。

「“こんな悪い奴らは懲らしめないといけない”“これを投稿すれば正義のヒーローになれる”と考えて、個人情報などを投稿しているのでしょう。普通に生きている中で、正義のヒーローになれる機会など、そうあるものではありませんから」(橘氏)

 とした上で、

「私はかねて“正義は最大の娯楽”だと言ってきました。正義を行使すると、脳の報酬系が刺激されて、ドーパミンが産生されるのです。ドーパミンを求める“正義”の投稿は、大衆の娯楽としてこれからも続くでしょう」(同)

 SNSで跳梁する人間の本性に、打つ手はあるのだろうか。

週刊新潮 2026年1月22日号掲載

特集「栃木県立高校“悪ガキ”暴力動画拡散でネット民の歪んだ正義」より

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