自称“愛妻家”なのに…50歳夫はなぜ不倫の沼に落ちたのか 「反省はある。でも妻を愛しているからこそ」の言い分

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いつの間にか恋人同士に

 ふたりは美枝子さんのワンルームマンションで話をしていた。揺れ動く彼女を隼澄さんは思わず抱きしめた。美枝子さんははねのけなかった。弱みにつけ込むのは嫌だったから、彼女が落ち着くのを待って、彼は「いつでも来るから」と帰っていった。

「その後、彼女から連絡がありました。『誰が悪いのか、会社がきちんと調べてくれた。私は隼澄から勇気をもらったよ』って。それからは彼女、仕事が楽しくなったようで、めきめき頭角を現していった。僕のほうは大学院を卒業して、中堅企業に就職しました。研究者とか学者はどうも向いてないとわかったし、その企業では一応、院で勉強したことも役に立つようだったから。僕は美枝子と違って、仕事に命を懸けるタイプではない。まあまあ暮らしていければいいやという感じだった。上昇志向みたいなものがあまりないんですよ」

 確かに彼は見るからに「ほんわか」とした人で、笑うと目尻がぐっと下がって人のよさが感じられる。そんな彼のよさに、大人になった美枝子さんは気づいたのだろう。そのころから美枝子さんは積極的に彼に連絡してくるようになり、いつの間にかふたりはつきあっていた。そして27歳のときに結婚したのだ。

幸せな家庭を築いて

 男女ふたりの子に恵まれ、美枝子さんは仕事を続け、隼澄さんはそんな美枝子さんを支えながら出世を望まずに子ども優先の生活を送った。だが地道に実直に仕事をして成果を上げていく隼澄さんは、いつしか会社にとってなくてはならない人になっていったようだ。忙しいのは嫌だと思いながらも40歳前に、その社では異例の早さで部長に昇格している。

「最低限しか仕事をしないという僕のやり方が、効率的だと思われてしまったようで……。チームを組んで仕事を進めていたので、僕はどちらかというと人に任せてばかりだったんですけど」

 謙遜しているだけなのだろうと思ったが、彼は本当にそうなんですよと笑顔を見せた。ときには彼の母親の手を借りながら、家庭は円満で子どもたちはすくすくと成長した。美枝子さんはふだん干渉はしないものの、子どもたちの変化は微妙に感じ取り、ひとりひとりと向き合っていた。

「母親として素晴らしいと思いました。美枝子は母親の過干渉から、高校時代に荒れたことがあったそうです。だから子どものことはひたすら見守る。愛情を伝える。それだけでいいって。彼女が仕事を辞めなかったのは自分も下手をすると過干渉な母親になるからだという不安があったそう。僕はそんな美枝子が大好きだったし、日常生活では僕が支えているように見えても、実は精神的に美枝子を頼っていました。彼女がいるから、彼女のためになるからというのがモチベーションだった」

 ところが今から2年前、彼のモチベーションを根底から覆すような事態が起こった。

 ***

 長きにわたる片思いを成就させた隼澄さん。「愛妻家」となるのもうなづけるが、なぜ、夫婦の関係は崩れてしまったのか。そのてん末は【記事後編】で明かされる。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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