包丁で我が子を“指導”、テストの点数が悪くて放火…現実に起きた「教育虐待」2つの惨劇を振り返る

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「息子を名門校に入れる」ことがアイデンティティに

 受験勉強の中で、憲吾は塾に任せるだけでなく、自ら付きっ切りで長男の指導をした。自分は親の期待通りの人間になれなかったが、息子をT中学へ合格させられるだけの学力はあるという自意識がそうさせたのだろう。

 だが、憲吾の期待とは裏腹に、長男の学力は思うように上がらなかった。憲吾は下手に勉強ができるぶん、いら立ちを抑えることができず、次第に暴力を振るうようになっていく。妻が止めようとしても「中学受験をしたことがないくせに!」と介入を許さなかった。

 やがて憲吾は長男の勉強を教える際に刃物で脅すようになる。怖がらせれば我武者羅に勉強すると思ったのだろう。もはや息子を名門校に入れるということでしか自分のアイデンティティを確立できなくなっていたのかもしれない。

 そんな親子に悲劇的な結末が待っているのは明らかだった。〝受験の天王山〟と呼ばれる小学6年の夏休みの8月、憲吾は勉強を教える中で、間違えてばかりいる息子に対して怒りを爆発させた。そして手にしていた刃渡り18・5センチの包丁で長男を突き刺したのだ。長男は出血多量で命を落とした。

 憲吾は殺人の罪で逮捕。裁判では、懲役13年が言い渡された。

シャープペンシルで頭を…

 愛知県の事件では父親が息子を殺害するというものだったが、逆のパターン、すなわち息子が親を殺害するケースもある。2006年に起きた「奈良県エリート少年自宅放火事件」だ。

 父親は総合病院に勤める勤務医だった。彼は、開業医の娘で薬科大卒の女性とお見合い結婚する。間もなく2人の間には長男のA男と妹が誕生した。

 家庭は経済的には豊かだったが、夫婦仲は険悪だった。父親がDVをくり返していたのだ。A男が4歳の時、母親は夫の暴力にたまりかね、幼い妹だけを連れて家出をした。そのため、A男は父親によって育てられることになる。

 A男が小学校に上がった後、父親は女医と再婚する。新たに男の子と女の子が生まれ、5人家族となる。

 新しい家庭では、父親は女医の妻にDVをしなかったようだが、そのぶんA男にはつらくあたった。しつけだけでなく、教育にも口を出し、「医者になれ」と厳命してマンツーマンで指導した。A男がドリルの解答を間違えただけで、「なんで、そんなんできへんのや!」と暴力を振るったり、シャープペンシルで頭を刺したりするほどだった。

 中学受験でA男が挑んだのは奈良県の名門・T学園だった。暴力を振るわれ、生きるか死ぬかの中で勉強していたこともあり、結果は合格だった。

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