小林幸子に「希望を捨てずに頑張んなよ」と声をかけた“お正月の顔”国民的スター…B面の楽曲「おもいで酒」が人生を変えた瞬間

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 夕刊紙・日刊ゲンダイで数多くのインタビュー記事を執筆・担当し、現在も同紙で記事を手がけているコラムニストの峯田淳さんが俳優、歌手、タレント、芸人ら、第一線で活躍する有名人たちの“心の支え”になっている言葉、運命を変えた人との出会いを振り返る「人生を変えた『あの人』のひと言」。第50回は歌手・小林幸子さん。まさに山あり谷ありの激動の人生を歩んできた小林さん。心温まるエピソードが満載です。

寅さんとの邂逅

「私の人生を変えた曲をお聴きください」

 小林幸子(72)がディナーショーでこう言って歌うのは、もちろん最大のヒットになった「おもいで酒」(1979年)。

♪無理して飲んじゃ いけないと~で始まる、別れても忘れられない相手への切ない想いを、しみじみと歌う名曲である。

「おもいで酒」については「いばらの道」(2012年)や、「涙と笑いの酒人生」(2015年)という、曲そのものにリンクするテーマのインタビュー連載でも語っていただいた。

 新潟市生まれ。9歳の時に素人参加番組「歌まね読本」(TBS)のグランドチャンピオンになり、歌謡界の大御所、古賀政男にスカウトされた。10歳でデビュー。古賀作曲の「ウソツキ鷗」(64年)は20万枚を売り上げるヒットに。まだ小学生だった少女には何が起きているかわからないまま、「第2の美空ひばり」といった見出しや最大級の賛辞が新聞に踊った。以後はドラマや映画に子役として引っ張り出され、大忙しの日々……。

 ところが、以降は新曲が出ても売れず、大人の事情もあって歌手の仕事がほとんどなくなる。64年には故郷の新潟が大きな地震に見舞われた。それを機に一家も困窮し、両親、二人の姉も上京、家族の生活は末娘の小林の肩にのしかかるようになる。

 15歳の年齢を18歳と偽って全国のキャバレーを回った。79年に「おもいで酒」がヒットする頃には、デビューから十数年が過ぎていた。

「おもいで酒」がヒットするまでの小林の紆余曲折は、日本人の琴線に触れるようで感じ入った人が多かったのだろう。山田洋次監督は「男はつらいよ」の第47作「拝啓 車寅次郎様」(94年)に、小林を本人役で登場させている。ドサ周りをする旅の空の小林と寅さん。お互いの心情を劇中で交錯させた。

 映画は小林の故郷、上越・高田駅前の商店街で歌う姿を見た寅さんが「希望を捨てずに頑張んなよ」と声をかけるシーンで始まる。ラストは九州の旅の途中、寅さんの前を「おもいで酒」の幟を立てた小林の車が通り過ぎるが、寅さんに気がついて引き返し、「先生に励ましていただいてあれから私の歌がヒットしたんです」と報告する。それを聞いて「次は紅白だね」と、寅さんがあの小さな目を細める。

 79年に紅白に初出場した小林の想いが、丸写しになったようなシーンだった。

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