恒例行事のコミケにさえ行けない…「実家」に束縛された推し活仲間が苦しみの末に選んだ「最悪の手段」【川奈まり子の百物語】

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オンライン葬儀

 送信者はA子の妹で、携帯電話番号が記してあった。

 すぐに電話を掛けた佳苗さんに彼女が応えて彼女が語ったことによれば、A子は自分の部屋で首吊り自殺を遂げたとのことだった。

 部屋に遺書が残されていて、死後の処理について要望が記されており、その1つが、佳苗さんと上司のB氏に関するこんな希望だったのだという。

――私が自殺したことを伝えた上で葬式に呼んであげてください。

 一般に、自殺者の遺族は死因を伏せた上で、通夜や葬式については近親者のみで弔う密葬式にする場合が多い。

 これについてはA子の両親も同様の処し方を選ぶとのことだったが、以下のような但し書きが付いた。

「いくら身内で済ませると言っても、父方と母方の祖父母を参列させないわけにはいきませんが、みんなコロナを怖がっておりますし、火葬場の方でも人数制限をしているようです。そこで佳苗さんとBさんのこともありますから、オンライン葬儀をすることにしました」

自殺の原因は

 受け容れるしかないが、佳苗さんは大いに困惑していた。

 オンライン葬儀など、聞いたこともなかった。

 B氏の名前をA子が挙げていたのも意外だった。B氏は2人が入社した折に新人指導にあたってくれた人で、3年前に大手柄を立てて出世した後も、佳苗さんたちに何かと目を掛けてくれていた。しかしA子と個人的に話をする仲ではない……と少なくとも佳苗さんの目には見えていた。B氏は今2人が参画している企画のグループにも入っておらず、A子が彼に参列を望むのは少し不自然に感じられた。

 そして、この疑問が繰り返し頭に浮かんで、彼女を苦しめた。

――どうしてA子は自ら命を絶ってしまったのだろう?

 A子の妹も、自殺の原因は何も思い当たらないと述べていた。

 佳苗さんは、こんなことになるなら、A子の実家に押しかけて無理矢理にでも東京に連れ戻せばよかったと後悔した。

 あるいは、実家でテレワークをするとA子が言ったときに、強く引き留めるべきだったのだ、と。

―――

 推し活仲間でもあった親友のA子が自殺……。【記事後編】では、衝撃のオンライン葬儀の様子が明かされる。

川奈まり子(かわな まりこ) 
1967年東京生まれ。作家。怪異の体験者と場所を取材し、これまでに6,000件以上の怪異体験談を蒐集。怪談の語り部としても活動。『実話四谷怪談』(講談社)、『東京をんな語り』(角川ホラー文庫)、『八王子怪談』(竹書房怪談文庫)など著書多数。日本推理作家協会会員。怪異怪談研究会会員。2025年発売の近著は『最恐物件集 家怪』(集英社文庫8月刊/解説:神永学)、『怪談屋怪談2』(笠間書院7月刊)、『一〇八怪談 隠里』(竹書房怪談文庫6月刊)、『告白怪談 そこにいる。』(河出書房新社5月刊)、『京王沿線怪談』(共著:吉田悠軌/竹書房怪談文庫4月刊)

デイリー新潮編集部

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