恒例行事のコミケにさえ行けない…「実家」に束縛された推し活仲間が苦しみの末に選んだ「最悪の手段」【川奈まり子の百物語】
ごめんね
しかし佳苗さんは、いつかコロナ禍が収まってきたらテレワークが解かれ、A子もこちらに戻ってくるものと信じていた。
2人の勤め先は優良企業で、給料も中の上クラスであり、親に反対されたぐらいで辞めるわけがないと思っていたのだ。
だから2021年の冬頃から徐々に推し活イベントが再開されはじめたときも、佳苗さんはA子も一緒に参加してくれるだろうと期待した。
「12月末に2年ぶりにコミケ(同人誌即売会「コミックマーケット」)が東京ビッグサイトで開かれるの、知ってるでしょ? 会社の休みと重なるから、イベント当日から元日までうちに泊まって参加したらいいと思う!」
こんなふうに誘ったとき、断られることは予想していなかったと佳苗さんは言う。
「私たちには毎回欠かさず参加していたイベントがあって、コミケもそのうちの1つでした。いつも楽しみにしていたんですよ。声優さんのファンクラブやアニメの同人グループがブースを出していて、顔見知りも大勢来るので……」
ところが、A子は「ごめんね」と佳苗さんに応えたのであった。
「すごく行きたいけど行けない。父は前から東京に偏見があったんだけど、コロナで極端に高じていて、テレワークが終わったら会社を辞めろって。遊びに行くのも、もちろん禁止。私も頑張って父と喧嘩したけど、そしたら母が泣くし、無理……」
「もう子どもじゃないんだから親なんか関係ないじゃん!」と佳苗さんは返事をした。
「出てきちゃえばいいよ。ちょっと狭いけど、新しく部屋を借りるまで、私のうちにいたらいい」
するとA子は「佳苗にはわからないと思う」と返してよこした。
「うちは田舎だから。妹は高校を中退してから家にあまり寄りつかないし。両親にとっては私しか頼れる子どもがいないんだよ」
著者に対して佳苗さんは、「あのときはショックを受けました」とおっしゃった。
「A子は大人になってから出来た唯一の本当に親しい友だちでしたから、裏切られた気分でした。でも、たしかに……私の両親は兄の家族と一緒に東京近郊に住んでいて、みんな都内で働いていて……兄はかなり堅実なタイプで、私より6歳も年上で、同い年の奥さんと小さな子どもが2人いて……二世帯住宅で両親が同居していて……。A子の家とは何もかも違っていたので、私にはA子のことがちゃんと想像できていなかったのだと思います」
佳苗さんは、今一つ理解できないながらもA子を気の毒に思い、LINEや電話でときどき愚痴を聞いてあげていたそうなのだが……。
テレワーク開始からおよそ2年半が経った2022年6月下旬、突然、A子の訃報がEメールで届いたのであった。
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