恒例行事のコミケにさえ行けない…「実家」に束縛された推し活仲間が苦しみの末に選んだ「最悪の手段」【川奈まり子の百物語】
推し活
皆さんは「オンライン葬儀」というものをご存じだろうか?
2019年12月に始まったコロナ禍で生まれた数々の新しい社会様式は、葬儀の現場にも訪れた。
それがオンライン葬儀だ。
通夜や葬儀告別式の過程をインターネットを通じてライブ配信するこの手法は、感染症対策として有効なだけでなく、パソコンやスマホといったデバイスさえあればどこからでも葬式に参列でき、広い会場を要しない分、費用も抑えられる。
このようにさまざまなメリットがあるため、以降、御弔いの一形態として定着した。
今回は、こうしたオンライン葬儀に参列したとある女性からお話を伺った次第。
東京都郊外在住の佳苗さん(仮)の同僚A子が北陸の実家で亡くなったのは、2022年7月のことだった。
当時、佳苗さんの勤め先はテレワークを実施しており、彼女は都内の自宅アパートで仕事をし、A子は都内の賃貸マンションを引き払って実家に戻っていた。
コロナ禍以前は、入社から約5年間ずっと同じ部署で勤務していた。
佳苗さんとA子は共に新卒採用された者同士で、出会った当初から馬が合い、親友同士の間柄であった。
2019年の春先、佳苗さんが実家を出てアパートを借りることになったとき、彼女はA子のマンションの近所で賃貸物件を探して転居したのだという。
つまり、それほど仲が良かった。
以来いわゆる“スープの冷めない距離”に住み、夕食を共にしたり休日を一緒に過ごしたりしてきたとか……。
佳苗さんが思うに、これほど親しくなった理由は、共通の趣味があったから。
それは、とある男性声優の推し活。
2人は、出会う前から偶然にも同じ声優の応援活動をしていたのだ。
父の呪縛
また、2人揃って、件の声優が声の出演をしているアニメや、彼が演じるアニメキャラクターの二次創作同人マンガのファンでもあった。
だから知り合ってからは、同好の士が集まるイベントに一緒に参加したり、情報交換をしたりしていたのだそうだ。
ところが、2020年の夏頃から本格的にテレワークが始まり、A子は北陸の実家へ、佳苗さんは自宅アパートに籠って仕事をするように……。
しかも、自粛ムードの中、各種の推し活イベントも行われなくなった。
その後も2人は主にLINEでときどき会話していたが、実家へ帰ってしばらくするとA子が「東京に帰りたい」としきりに訴えるようになった。
かねてA子の両親、特に父はA子を身近に置いておきたがっていて、そのためテレワークになった途端、実家に帰らされたという経緯があった。
そのときも彼女の父は「おまえが東京にいる間に私たちがコロナで死んだらどうする?」などと脅して強引に帰郷させたそうであったのが、帰らせれば帰らせたで、今度は二度と逃すまいとしはじめたというのである。
銀行の通帳やクレジットカードを隠すことまでしたとか……。幸い取り戻したとA子は話していたが、彼女が感じているであろう危機感は佳苗さんにも伝わった。
「うちに来たらいいよ!」と佳苗さんはA子に言った。
しかしそんなふうに見切れるものなら、そもそもA子は東京の住まいを引き払ったりはしていない。心優しい家族想いの一面が仇になり、それからもA子はLINEで愚痴をこぼしては東京の暮らしに戻りたがるばかりだった。
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