“飛影はそんなこと言わない”アニメと漫画、真逆のキャラアプローチ 「炭治郎」「デク」が“濃い”のには訳があった
全体を見るアニメ、練り上げる漫画 それぞれの違いの面白さ
――作品づくりにおいて、アニメと漫画は真逆のアプローチをしているのですね。面白い。
伊藤:漫画に自分でも関わってみて思ったのは、アニメとは第1話に入れられる情報量が違うということです。アニメの考え方で第1話に情報量を入れようとすると全然入らないんです。アニメだと後々に出てくるキャラクターも第1話に入れておこうとつい考えがちなんですが、漫画ではそれができない。第1話で3人くらいのキャラクターしか描けないんです。なので多数のキャラでなく、コアな登場人物に絞って、代わりにそのキャラクターの魅力を出すんです。
YouTube「ジャンプチャンネル」で、「暗殺教室」「逃げ上手の若君」の作者である漫画家の松井優征さんがノウハウについて話している動画が話題になったのですが、第1話では小出しにキャラクターだけを見せて、第2、第3話で先が気になるような世界観を提示して読者を惹きつけるという趣旨のお話をされていました。最初から全部語りすぎないで「こういうキャラクターがいますからついてきてくださいね」と読者との契約をする。
――キャラクターが強いと商品展開もしやすいですよね。
伊藤:「鬼滅の刃」の主人公・竈門炭治郎は受け身ではありますけど。必死に妹を守るタイプでキャラクターは強い。「僕のヒーローアカデミア」の緑谷出久も弱いけど、心は強い、とわかりやすい。
漫画はキャラありきで考えていますが、アニメ界隈の人は自分を含め、もう少し全体のことを考えすぎてる気がします。結果として出来上がった作品の中からキャラが強いことはあるかもしれないですけれど、初めからそこに集中するという方法もあるのだな、と。 漫画家と編集者はマンツーマンじゃないですか。そこで練り上げられた漫画と、週1の脚本会議でやるアニメとでは強さが違うなとは感じます。
「下手な映画を見たくない」心理
――1月30日には伊藤監督の最新作「クスノキの番人」が公開されます。原作は作家・東野圭吾氏の2020年のベストセラー小説です。見所はどのあたりでしょうか。
伊藤:肩ひじ張らずに見てちゃんと感動できる作品になったんじゃないかと思います。全年齢が楽しめる作品になっていますが、年配の方はよりグッとくる作品に仕上がっているのではないかという気がします。俺が映画を観に行く平日の午前中は年配の方が多いので、この人たちに楽しんでもらえるといいなあ、と思って作っていました。主人公の直井玲斗は若いキャラクターで、若い人は彼に感情移入して、年配の方は彼の伯母である柳澤千舟というキャラクターに感情移入して観て頂けると良いのかな、と思います。前編でも話題が出ましたが、オリジナルものや単発の映画が作られにくくなっていく気配を感じているので、シリーズものの続き以外の映画という意味では、これが最後の映画かもな、と思って仕事していました。
――最後に2026年、アニメ業界はどうなってほしいですか。
伊藤:これはアニメに限ったことではないですが、大きくは景気が良くなってほしいです。今年の日本映画のメガヒットでいえば「鬼滅の刃」「国宝」がありましたが、その背景には「下手な映画を見たくない」「映画選びに失敗したくない」という考えもあると思うんです。そして「これだけヒットしているのだから面白いはずだ」と年に1回しか映画館に足を運ばない人たちが、安心して楽しめる作品として見ている。逆にいえば、そうではない作品には行かないわけです。
映画に行く時間もお金もないし、メガヒット以外の作品がチョイスされないとなると、作品やジャンルがすごく淘汰される可能性がある。景気が上がれば「もう一本ぐらい見に行くか。予告で流れてたやつが気になるし」と余裕が出てくるじゃないですか。メガヒット作品だけが生き残って、それ以外は絶滅していく感じにはならないでほしいです。多様性という言葉ではないのかもしれませんが、日本のアニメの強みはある種の『雑多な感じ』だとも思うので、それが無くなっていかないよう、自分も先人の思いを途絶えさせないよう努力したいですね。
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【記事前編】では、2025年のヒット作、伊藤監督の選ぶベスト作などについて話をうかがった。
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