インバウンドが少ない日本の名湯7選! 雪国の秘湯から関東の“穴場”まで一挙に紹介

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上杉謙信の傷を癒やした「日本三大薬湯」

 有馬(兵庫県神戸市)、草津と並ぶ日本三大薬湯の一つと称される松之山(まつのやま)温泉は、雪深い新潟の山あいにある。温泉は、なめるとしょっぱいほど塩分濃度が高く、ナトリウムの塩パック作用で体を芯から温め、湯冷めしにくいといわれる。 

 殺菌効果と温浴効果が期待できる泉質から、古来、外傷の治療で湯治する人が多く、越後守護上杉家の隠し湯だったという説もあるとか。薬湯として有名温泉と肩を並べるだけのことはあるが、インバウンドには圧倒的に知名度が低い。

 その要因は公共交通機関での乗り継ぎがやや面倒なことだ。東京駅からJR上越新幹線で越後湯沢駅までは1時間20分ほど。北越急行ほくほく線に乗り換えて約50分でまつだい駅へ。そこから日に6本のバスで約25分揺られてたどり着く。

 県内有数の豪雪地帯とあって、年によっては5メートルを超える積雪になることもあるという。だからというわけか、冬の松之山温泉には雪に守られているような静けさと穏やかさがある。

 温泉地の入口から奥までは500メートルほど。こぢんまりとしたエリアに宿が6軒、周辺地域と合わせても宿泊施設は十数軒。温泉街からはやや外れたところにある「松之山温泉 凌雲閣」は国の登録有形文化財に指定された木造3階建ての宿だ。

 同宿の主である島田怜さんに聞くと、

「本館の客室は、建築時に初代の主が上州・渋川から宮大工を呼び寄せ、1人1室を担当させて技と意匠を競い合わせたそうです」

 宿泊の際には、部屋の設えにちりばめられた宮大工の遊び心あふれる趣向に注目してみてほしい。

 凌雲閣を含む複数の旅館などが共同で開発したご当地グルメも魅力の一つ。

 地元の棚田で取れたコシヒカリの重湯をベースとしただしと、棚田に積もった雪をイメージした大根おろし、おこげの三つを基本形として、各旅館が具材や味付けをさまざまに工夫した「棚田鍋」。妻有(つまり)ポークの熟成肉を63~68度ある源泉の温泉熱で、2時間ほど低温真空調理してやわらかく仕上げた「湯治豚」は、ここでしか食べられない逸品だ。

 温泉街でくつろぐのもいいが、体を動かしたいなら約2キロメートルはなれた「松之山温泉スキー場」へ。ここでスキーやスノーボードなどを楽しんだ後、おなかがすいたら「レストハウス雪椿」のラーメンがオススメ。横浜中華街仕込みのシェフが作る本格派で、スキー客のみならず地元住民にも好評なんだとか。薬湯の効能と充実したご当地グルメで、しっかりと滋養をつけよう。

自家源泉であたたまる「温泉熱の床暖房」

 霊峰・御嶽山の飛騨側登山口に位置し、標高1800メートルと、通年営業する温泉街としては日本でも有数の高所にあるのが濁河(にごりご)温泉だ。

 泉質は日本屈指の高濃度を誇る天然の炭酸水素塩泉(ナトリウム・カルシウム―炭酸水素塩・硫酸塩泉)で、神経痛や動脈硬化症、高血圧症などによく効くといわれている。

 5軒(うち通年営業は4軒)の宿泊施設がある温泉街で唯一、自家源泉を持つ、創業55年の「朝日荘」の松坂靖さんに、オススメの過ごし方を聞いてみた。

「当館はオーバーツーリズムとは無縁の秘湯宿。といっても東京や大阪からなら4時間ほどで到着します。その後はもう何もせずに過ごされる方が多いですね。温泉にゆっくり漬かるのはもちろん、温泉熱による床暖房で暖められた館内で翌朝までくつろげば、1泊でも十分リフレッシュできると思います」

 なお、濁河温泉までは路線バスがない。車でのアクセスに限られるが、同地に至る道路は御嶽パノラマラインと呼ばれ、御嶽山や日本一長い溶岩流が一望できる絶景スポットもある。初夏や紅葉の時期のドライブはあまり気を張らなくてよいが、冬場は交通規制や電波が通じないエリアもあるので要注意。各宿のHPのアクセスページを熟読してから現地に向かおう。

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