最愛の母の死に、妻は寄り添ってくれなかった…似た傷を抱えた人妻に“共鳴”してしまった52歳夫の告白
グループケアで出会った結香さん
数ヶ月後、ときどきそこで顔を見かける女性と、グループケアのときに話す機会があった。彼女は結香さんといい、元気だった妹を事故で亡くしたばかり。前日、ふたりでランチをともにしたとき大げんかをしてしまい、そのまま妹が帰らぬ人となったことを悔やんでいた。
「同病相憐れむというんでしょうか、お互いに気持ちがわかるだけに急接近しました。グループケアに入ったときは、僕も彼女もだいぶ自分を取り戻してきた時期だったんでしょう。悲しみに埋没するより、自分の人生をきちんと歩んでいこうと励まし合いました」
“見当外れ”のはげましに「ぶん殴ってやろうかと」
それをきっかけに連絡をとりあってときどきお茶をしたりランチをとったりするようになった。彼女も既婚で、利弘さんより4歳下の36歳。7歳と4歳の子がいた。同居している義母が子どものめんどうは見てくれるが、夫も義母も妹を亡くした彼女の気持ちを理解しようとしてくれないという。
「『本当は理解しようとしてくれているのかもしれないけど、見当外れなの。そんなふうにしていたら妹さんが成仏できないわよと義母に言われたときは、正直、ぶん殴ってやろうかと思った』と結香は少し笑いながら言っていました。慰めよう、励まそうとするあまりにヘンなことを言ってしまうことってあるんですよね。でも当事者は傷つく。夫は『結香に早く元気になってほしい』とストレートに言うのだけど、自分がいちばんそう思ってるわと反発したくなる。そっと見守ることがどれほどむずかしいか、自分が当事者になって初めてわかったという結香の言葉に、僕も賛同しました。妻は特に母のことで僕を慰めるようなことはなかったけど、いちばん心が沈んでいたとき、『今度の日曜日、子どもたちが遊園地に行きたいって』とごく普通に言ってきたときは、ちょっとイラッとしました。僕の気持ちなんかまったく考えていないんだなと」
同じような気持ちだった利弘さんと結香さんは、少しずつ、だが着実に接近していった。
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母の死という悲劇をきっかけに、利弘さんの「楽しい家庭」に暗雲がたちこめて……。【記事後編】では、彼が「地獄にいるような思い」と語る現在について詳しく紹介している。
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