自宅を「暴力団事務所」と認定して組長を逮捕…「暴力団だから仕方がない」がもたらす“新たなリスク”とは

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カルト宗教の事務所は自由

 組長は「取り調べでは、組事務所として使っていただろ、と何度も自白を迫られました」とのことだった。

 組長は当然の如く「違います。ずっと自宅です。事務所としては使用していません」と言い続けたので、犯行を認めぬ否認行為と見なされてそのまま起訴されて刑罰を下された。その後、この組長は自宅を転居するしかない状況に追い込まれた。

 自宅の賃貸契約違反が原因で転居を余儀なくされたのなら合点もいくが、単なる自宅を暴力団事務所だと一方的に認定されたことで──となると、人間としての生活に不自由を与えられたと言っても過言ではないだろう。

 しかし、「暴力団のくせに何を言ってるんだよ?」、「そもそも暴力団だからこういう目に遭うのはしょうがないよね」と言う人がいる。

 自業自得であり、犯罪組織に人権は無用だと言う人もいる。ならトクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)や特殊詐欺のアジトについてはどうだろうか?

 カルト宗教の拠点はどうなるのだろうか?

 日本国内に点在している不良外国人犯罪者の拠点についてはいかがなものだろうか?

 これらは言うまでもなく暴対法や暴排条例の対象外となるので事務所差止にもならなければ使用制限が付くこともない。

暴力団を潰しても犯罪は増える

 不動産賃貸契約における用法義務に関する契約違反に問うことはできるかもしれない。だが、そこが住居専用物件ならまだしも、そもそも法人利用可能な営業オフィスや店舗だった場合は用法義務違反の線引きがかなり難しくなってくる。

 つまり暴力団とは異なる犯罪組織や、いかがわしい迷惑集団の拠点として存在し続け、いつまでも犯罪や迷惑行為が繰り返されてしまう。

 人格権の侵害で言えば、弱体化した暴力団の事務所よりも、新たな犯罪者たちの拠点こそ近隣住民とのトラブルが近年多発しているように見える。

 S県の中核都市がいい例だろう。これまで市民による暴追運動が活発化する中で当局は執拗に暴力団事務所を潰してきた。そうすることで全国の暴力団総人数は減少の一途を辿り暴力団自体の犯罪件数も減った。

 だが、暴追運動の成果と比例して、暴力団とは違う連中による犯罪が減った試しがあっただろうか?

 もしかしたら犯罪そのものは増えてしまったのではないだろうか?

 令和の時代になってもなお、暴力団にだけ固執するのではなく、そろそろ新たな犯罪集団や社会悪に対する新しい法整備や市民による新しい防犯活動を積極的に行った方が住みよい社会の実現にもっと近づく気がしてならない。

 第1回【全国で激減する「暴力団事務所」…存在するだけで近隣住民の“平穏な日常生活を営む権利”を侵害とも 10年で「400カ所」以上が閉鎖、解体のウラ事情】では、暴力団の和彫りでさえ「美しい」と絶賛する外国人もいる中で、暴力団事務所はありとあらゆる人々から嫌悪されている状況について詳細に報じている──。

藤原良(ふじわら・りょう)
作家・ノンフィクションライター。週刊誌や月刊誌などで、マンガ原作やアウトロー記事を多数執筆。万物斉同の精神で取材や執筆にあたり、主にアウトロー分野のライターとして定評がある。2020年に『山口組対山口組』(太田出版)を、25年9月には『闇バイトの歴史 「名前のない犯罪」の系譜』(同)を上梓

デイリー新潮編集部

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