自宅を「暴力団事務所」と認定して組長を逮捕…「暴力団だから仕方がない」がもたらす“新たなリスク”とは
第1回【全国で激減する「暴力団事務所」…存在するだけで近隣住民の“平穏な日常生活を営む権利”を侵害とも 10年で「400カ所」以上が閉鎖、解体のウラ事情】からの続き──。今や暴力団の事務所は存在するだけで“コンプライアンス違反”を問われる時代になってしまった。(全2回の2回)【藤原良/作家・ノンフィクションライター】
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ある暴力団組長は、組事務所を構えずに活動していた。近年は暴排条例の影響だけでなく、純粋な資金難から事務所を設置せずに活動する暴力団も多い。
ところが、この組長の自宅は「暴力団事務所」であると行政から判断され、あろうことか条例違反で逮捕されてしまった。
組事務所を捜査機関が追及すること自体の是非は脇に置く。だが暴力団の組長自宅を自動的に事務所だと判断してしまったとしたら──事実認定は極めて厳格でなければならないのだから──行き過ぎだと感じる人も多いのではないか。
例えば個人事業主だけでなく、法人の代表者であっても自宅を事務所や会社と兼ねている人は多い。その場合、自宅であっても必ず事務所や会社としての表札や看板が設置され、法人宛ての配送物や郵便物が届くようになっている。
自宅の中には書類や道具が置かれた明らかな仕事部屋がある。実は仕事部屋の有無も反社会的勢力対策に注力する銀行が、新規の法人口座開設において実態確認を行う際のチェックポイントにもなっている。
しかし、この組長の自宅に暴力団事務所と結びつけることができる物品は特になかった。看板や代紋、廻状や御賢台、組員が寝泊まりするための寝具、監視カメラなどといった暴力団の事務所特有の物もなければ事務機能を備えた部屋すらなかった。
そして当然、捜査当局に長らく「自宅」として把握されてきた正真正銘の住居でしかなかった。ちなみに暴力団組長の自宅は自宅と呼ばれるだけでなく、「本家」、「本宅」、「組長宅」と日頃から組事務所とは区別して取り扱うのが警察の捜査や警備の常識でもある。
人権無視の可能性
それなのに、この組長のケースを見ると、これまで自宅とされていた住居が突然、暴力団事務所にされてしまったわけだ。
確かに組長の自宅には組員たちの出入りはあった。そのせいで一般家庭とは異なる独特な雰囲気を醸し出してもいた。だが組員たちの出入りは単なる送り迎えや個人的な訪問でしかなく、暴力団事務所として当番者が常時交代制で詰めていたわけでもなければ、組の行事や打ち合わせなどで使用されたこともなかった。
つまりここは基本的人権が尊重されるはずの住居という生活空間でしかなかった。この状況でこの組長の自宅を暴力団事務所としてわざわざ認定することに果たして整合性はあったのだろうか?
近隣住民から「あそこは暴力団事務所だ」「物騒だ」「不気味だ」「人格権の侵害だ」と相談を受けたのなら、警察当局は近隣住民に対して「あそこは事務所ではなく自宅です」と日常の警戒業務の産物として正確な状況を説明し、一方の暴力団組長にも「相当な注意・指導・警告」を施すことはできなかったのだろうか?
何にせよ結局は組長を逮捕するに至ったとしても、せめてその逮捕前にこのような手順を段階的に踏まえることはできなかったのだろうか?
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