全国で激減する「暴力団事務所」…存在するだけで近隣住民の“平穏な日常生活を営む権利”を侵害とも 10年で「400カ所」以上が閉鎖、解体のウラ事情

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組事務所は存在自体が「パワハラ」

 言い換えれば、暴力団事務所とは存在しているだけで近隣住民にパワハラや嫌がらせを行っていると解釈するほかないだろう。その結果として暴力団事務所の差止や使用制限などを可能にする「安全配慮エリア」を拡大する自治体が急増している。

 しかしながら、暴力団事務所に対する様々な“圧力”を、「人格権の侵害を守るための法令遵守だ」という一言で片付けてしまっていいのだろうか?

 ある暴力団組長は、組事務所を構えずに活動していた。近年は暴排条例の影響だけでなく、純粋な資金難から事務所を設置せずに活動する暴力団も多い。

 結果、組長の自宅に組員が昼夜を問わず出入りする機会も増え、近隣住民から「あそこは暴力団事務所だ」と勘違いされてしまうことが増えた。

 近隣住民からの相談を受けた当局によって、この組長の自宅は「暴力団事務所」であると一方的に判断されて、あろうことか組長は条例違反で逮捕されてしまった。

「自宅を事務所として使った覚えはない」とこの組長は言い切る。

 そもそも暴力団事務所とは、資金稼ぎの拠点や暴力団としての勢力誇示の道具の1つだとされている。組長は「自宅で仕事をしたこともなければ組の看板を掲げたこともない。組員は自分を迎えに来たり、訪ねに来ていただけだ」と反論する。

 この組長の自宅は純粋に自宅だったのだが、捜査関係者はその主張を認めない。組長の自宅がどうなったのか。第2回【自宅を「暴力団事務所」と認定して組長を逮捕…「暴力団だから仕方がない」がもたらす“新たなリスク”とは】ではその顛末をお伝えする──。

藤原良(ふじわら・りょう)
作家・ノンフィクションライター。週刊誌や月刊誌などで、マンガ原作やアウトロー記事を多数執筆。万物斉同の精神で取材や執筆にあたり、主にアウトロー分野のライターとして定評がある。2020年に『山口組対山口組』(太田出版)を、25年9月には『闇バイトの歴史 「名前のない犯罪」の系譜』(同)を上梓

デイリー新潮編集部

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