全国で激減する「暴力団事務所」…存在するだけで近隣住民の“平穏な日常生活を営む権利”を侵害とも 10年で「400カ所」以上が閉鎖、解体のウラ事情
俗に「組事務所」と呼ばれる暴力団事務所は、全国暴力追放運動推進センターによれば資金稼ぎの拠点であり、暴力団の勢力を誇示する“大きな看板”としての意味合いが強いという。組事務所は暴力団の威圧行為の代表例である「入れ墨を見せる」、「代紋や肩書き入りの名刺を出す」と共にその三大要素の一角に位置付けられている。(全2回の第1回)【藤原良/作家・ノンフィクションライター】
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世界では多文化共生社会が進んでいるためか、“タトゥー”をファッションの文脈に位置づける人が増えている。暴力団特有の“和彫り”でさえも一部の外国人は「美しい」と賛美する時代になった。
だが代紋や肩書きの入った暴力団ご用達の名刺については、そもそも印刷請負業者が暴力団排除条例に問われるリスクから注文を断ることも多く、組員の名刺作りがとても困難な状況が長く続いている。
2012年の暴対法改正で「暴力団事務所使用差止請求制度」が導入されると、市民や行政による請求が相次ぎ、事務所の使用が差し止められた上での移転、売却、解体などが相次いでいる。
話題になったケースでは、唯一の「特定危険指定暴力団」である工藤会の4階建て本部事務所(北九州市)が2019年から解体が始まったほか、「特定抗争指定暴力団」の六代目山口組の総本部(神戸市)をはじめとする11カ所もの暴力団事務所に使用制限の本命令が下った。
東京都台東区にあった指定暴力団「松葉会」本部事務所の明け渡し訴訟では、賃貸契約の内容が現在の暴排条例違反に必ずしも当てはまらなかったにもかかわらず、東京地裁は「近隣住民の安全を考慮した上では義務違反に該当する」として明け渡しの判決を2024年に下した。
組事務所=人格権侵害
そもそも組事務所だけでなく、暴排条例などを理由に自宅アパートの転居さえ余儀なくされた組員も年々増加している。一部報道によれば過去10年間で400カ所以上の暴力団事務所が差し止めや使用制限を命じられて閉鎖や解体となっている。
若者を中心に今では市民権を得たかのようなタトゥー文化とは違い、暴力団事務所は内外装ですら共感を得がたいデザインだと言えるだろう。特に一般市民には恐怖の対象でしかなく、不動産取引に関しては暴排条例で厳しい制限が科されている。
このように法律からも市民からも敵視されている暴力団事務所だが、注目すべきは事務所の存在そのものが近隣住民や通行人の「人格権侵害の要因」だと裁判で認められるようになったことだ。
暴力団事務所の存在そのものが「人格権侵害にあたる」とは一体、どういうことなのだろうか──?
人格権とは、「生命・身体・財産・自由・貞操等の身体的側面に関する利益」と「名誉・信用・肖像等の精神的側面の利益」を侵されることなく何人も平穏な日常生活を営める権利のことである。
人格権の侵害について分かりやすい例をあげるとパワハラ、嫌がらせ、いじめ、性的虐待などが該当する。そして、こうした侵害事例の中に「暴力団事務所の存在」も加わるということになる。
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