吉永小百合、高峰秀子、牧瀬里穂…「温泉地」でひときわ輝く女優たち 風情と名演を堪能できる映画4選【冬の映画案内】

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牧瀬が過ごした「かけがえのない時間」

 撮影は西伊豆の温泉地・松崎町で行われた。なまこ壁や、「伊豆の長八美術館」などが有名で、今でも昭和の情景が残る場所だ。今年の7月、牧瀬が35年ぶりにこの地を訪ねる番組が放送された(「牧瀬里穂 あの時の記憶をたどって」衛星劇場)。

 つぐみの家は、当時実際に営業していた「梶虎旅館」で撮影された。しかしそこを訪ねると更地となっていて、牧瀬のがっかりした様子が映されている。牧瀬は当時18歳だった頃を振り返って「かけがえのない時間だった」と。そして「これ以上の作品に出会えるのかなという気持ちもあって、私は『つぐみ』で引退してもよかったんじゃないかなと思っていた」と語っている。

 松崎町はドラマ「世界の中心で、愛をさけぶ」(2004年)のロケ地としても有名だ。「聖地巡礼」で訪れるのも楽しいかもしれない。

温泉と踊子

〇「伊豆の踊子」(1974年)

 川端康成の原作で、これまで6回映画化されている。田中絹代をはじめ、美空ひばり、吉永小百合などが踊子を演じているが、今回は山口百恵版を観てみよう。

 20歳の旧制一高生である「私」(三浦友和)は、初めて伊豆への旅に出る。途中旅芸人の一座と出会い、可憐な踊子(山口百恵)に惹かれる。「私」は彼女らと下田まで旅をすることにした。

 映画は、「私」が湯ヶ島の「湯本館」で踊子が玄関で踊るのを見るところから始まる。湯本館は川端が「伊豆の踊子」を執筆したことで有名だ。その後、芸人たちと共に湯ヶ野温泉まで行く。宿の風呂に入っていると、川向こうの共同浴場から踊子が手を振っている。原作にはこうある。

「仄暗い湯殿の奥から、突然裸の女が出てきたかと思うと(略)両手を一ぱいに伸ばして何か叫んでいる。(略)私は心に清水を感じ、ほうっと息を吐いてから、ことことと笑った。子供なんだ」(川端康成『伊豆の踊子』新潮文庫)

 この宿「福田屋」は現在も踊子の宿として人気だ。だいぶ前になるが、踊子が入ったと言われる共同浴場を訪れたことがある。思ったより小さく感じたが、川向こうには確かに「福田家」があった。

友和・百恵、現実の恋愛の始まり

 その後一行は、湯ヶ野を出て下田に入った。「私」は港で踊子に別れを告げ船に乗る。1人になると頬に涙が流れ落ちた。

 山口と三浦は1974年の5月にグリコのCMで初めて会い、9月に本作で共演する。映画は大ヒットし、以降多くの作品でコンビを組む。そして1980年に結婚し、山口は芸能界を引退した。三浦の著書にはこうある。

「共演するようになって一、二年たった頃だろうか。私は仕事以外で見せる彼女の天真爛漫な無邪気さに次第にひかれていった。台本上での『愛している』は擬似恋愛を越えてしまっていた」(三浦友和『被写体』マガジンハウス)

 本作は、2人の現実の恋愛の始まりを見せてくれていたのだ。

稲森浩介(いなもり・こうすけ)
映画解説者。出版社勤務時代は映画雑誌などを編集

デイリー新潮編集部

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