吉永小百合、高峰秀子、牧瀬里穂…「温泉地」でひときわ輝く女優たち 風情と名演を堪能できる映画4選【冬の映画案内】

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銀山温泉、映画史に残る幕切れ

〇「乱れる」(1964年)

 山形県の銀山温泉は、NHK連続テレビ小説「おしん」(1983年~84年)で一躍有名になった。特に雪景色は幻想的で、宿は予約が取れないほどの人気だという。その「おしん」より20年ほど前にこの地で作られた作品がある。その幕切れは、映画史に残るとも言われている。

 昭和30年代後半の静岡県・清水市。戦争で夫を亡くした礼子(高峰秀子)は、嫁ぎ先の酒屋を18年にわたり切り盛りしてきたが、夫の家族からは疎んじられている。だが、義弟の幸司(加山雄三)は礼子に密かな想いを寄せていた。世間体を重んじその想いに応えられない礼子は、身を引く決意をして実家の山形へ帰る列車に乗る。しかし、幸司はその列車に乗り込み同行する。

 この頃加山雄三は、映画「若大将シリーズ」が大ヒットしている時期だった。明るいスポーツマンの若大将と違い、定職につかずに酒を飲んだくれる青年を演じていて、そのギャップが面白い。

 2人は途中下車し、銀山温泉に宿泊する。宿での一夜、礼子は心を許しかけるが最後まで踏み切れない。礼子への想いを諦めた幸治は宿を出ていく。翌朝礼子は、窓から思いもかけない光景を見て宿を飛び出した。やがて映画は、礼子の顔のアップで幕を閉じる。この時の悲しみと後悔が入り混じる高峰の表情は、本当に美しい。どうしようもできなかった無念さが、切々と胸に迫るラストだ。

 2人が泊まる宿は「旅館 永澤平八」という。大正14年築の木造三階の建物は、撮影時とほぼ変わらない風情で今もある。銀山温泉は60年前の面影を残す稀有な場所なのだ。これから訪れる方は、ぜひこの映画を観てから行くことをお勧めする。

18歳の牧瀬里穂

〇「つぐみ」(1990年)

 吉本ばななのミリオンセラー『TUGUMI』を、市川準監督が映画化した。生まれつき体が弱く、わがままな性格ながらも魅力的な少女つぐみと、彼女を取り巻く人々とのひと夏の出来事が描かれている。

 まりあ(中嶋朋子)は、いとこのつぐみ(牧瀬里穂)と姉妹のように育った。まりあが帰省した夏、2人は恭一(真田広之)という青年と出会う。つぐみと恭一は惹かれ合うが、不良少年たちが恭一に暴行を加え、つぐみの愛犬を殺してしまう。復讐を誓ったつぐみは大きな落とし穴を掘るが、その無理がたたり倒れてしまう。

 牧瀬は前年のJR東海のCM、「クリスマス・エクスプレス」で大きく注目された。山下達郎の曲、「クリスマス・イブ」とともに覚えている人も多いだろう。プロデューサーの奥山和由はこのCMを見て「なんとも言えないチャーミングな表情をする子だなと思ってね。で、とにかく牧瀬さんと仕事したい」と起用した理由を語っている(春日太一『黙示録 プロデューサー・奥山和由の天国と地獄』文藝春秋)。

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