吉永小百合、高峰秀子、牧瀬里穂…「温泉地」でひときわ輝く女優たち 風情と名演を堪能できる映画4選【冬の映画案内】

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 日に日に寒さが厳しくなる今日この頃、週末はどこかの名湯を訪れるのも悪くない。温泉街に漂う独特の風情もまた、日常に疲れた心をそっと癒やしてくれるだろう。そんな特別な風情を自宅で堪能できるのが、日本映画の名作たちだ。センシティブな感情を見事に表現した主演女優たちを軸に、映画解説者の稲森浩介氏がおすすめの作品を紹介する。

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吉永小百合、儚げな美しさ

〇「夢千代日記」(1985年)

 映画「夢千代日記」は、第3シリーズまで放送され大きな反響を呼んだ、NHKドラマ(1981年~84年)の完結編として制作された。

 山陰の温泉町で置屋を営む胎内被爆者の夢千代(吉永小百合)は、余命半年と宣告される。ある日、女性の投身自殺を目撃したことで、父親殺しの容疑で逃亡中の宗方(北大路欣也)を知る。やがて2人の間に愛が芽生えるが病状は悪化し、芸者たちに見守られながら静かに息を引き取る。

 吉永はこの時40歳。儚げな美しさが際立ち、慈母のような優しさを感じられる。菊奴(樹木希林)が、泣きながら夢千代を語るのが印象的だ。「あの人のことは誰もが好きになる。だけど命が乏しい人だでねえ」「一日ごとに体が透き通るようなって」と。夢千代が自身の遺影を部屋で撮影するシーンは涙を誘う。

 物語の舞台は山陰の冬景色が印象的な温泉町で、撮影は兵庫県の湯村温泉で行われた。温泉街の中心には「夢千代像」が建つ。「夢千代館」では、吉永の着用した着物なども展示されている。

樹木希林が吉永を認めた理由

 監督の浦山桐郎は、吉永が主演した「キューポラのある街」(1962年)がデビュー作だった。今作が遺作となった浦山とのことを、吉永は樹木との対談で話している。

 夢千代の最期に「ピカ(原爆)が怖い」ではなく、「ピカが憎い」と言ってくれと浦山はいう。しかし吉永は、夢千代は「憎い」とは言えませんと譲らなかった。樹木は「そのたった一つの台詞を譲らなかったのを見て、私は小百合さんのことを認めましたよ。撮影はストップして現場は混乱しましたけど」と語る。吉永は「間違っていないと思っていましたけど、監督を苦しめてしまった」と(吉永小百合『夢の続き』集英社文庫)。

 吉永は、今作で夢千代が死を迎えることを希望したという。二度と演じることができない役を、万感の思いを込めて演じきったのだろう。

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