オフレコの「核保有発言」を朝日新聞が真っ先に報じた舞台裏

国内 政治

  • ブックマーク

【全2回(前編/後編)の前編】

 朝日新聞が他社に先駆けて報じた、官邸筋・A氏による“核保有発言”は、米国や中国でも取り上げられる騒ぎとなり、野党側からはこの幹部の更迭を求める声が相次いでいる。一方、日本の安全保障環境が厳しさを増す中、核保有発言は「過激な意見ではない」と擁護する専門家の声も。

 ***

 東京・永田町の首相官邸の一室に、官邸記者クラブ所属の主だったメディアの担当者が集められたのは12月18日午後2時のことだった。A氏がオフレコ懇談会を開催したのである。十数名に及ぶ出席者の一人から、非核三原則の見直しに関して問われると、A氏は「個人的な見解」と断った上でこう自説を披露した。

「最終的に頼れるのは自分たち。日本は核兵器を保有するべきだ」

 ただし、同時に以下のように留保もつけている。

「非核三原則の見直しは大きなポリティカルキャピタル(政治的資本)が必要になる。コンビニで買ってくるみたいにすぐにできる話ではない」

 政治部デスクが言う。

「A氏の懇談会は、就任以来、これが初めてでした。官邸内で開かれた準公式的な性格のもので、アルコールは提供されていません。“オフレコ”との取り決めで案内されており、今後の定例化を予定したものでした」

 少々、説明が必要だろう。オフレコ取材には2種類ある。一つは、取材側が必要と判断した場合に「官邸筋」や「政府高官」などと、発言者を匿名にした上で発言内容を報じることができる「オフレコ」。もう一つは、発言内容を一切報じない「完全オフレコ(完オフ)」である。

「実は冒頭、官邸スタッフから“話はこの場限りで”という趣旨の言葉がありました。このため、社によってオフレコ扱いとするか、いわゆる完オフとするかで見解が分かれたのです」(同)

真っ先に報じた朝日新聞

 小一時間に及んだ懇談会で飛び出したA氏の「核保有」発言は、現場にいた記者たちを大いに困惑させた。

「終了後も、現場の記者たちは部屋を後にしながら、“どうする?”“朝日新聞さんが書くなら後追いしますけど”と言葉を交わすなど、戸惑いが広がったそうです。また、現場から報告を受けた官邸クラブのキャップたちも、対応を協議しました。官邸側は事後的に改めて“完オフ”だと記者団に通知したのですが、後の祭りでした」(前出のデスク)

 当日夜、朝日が社内協議を経て最初に自社サイトで「官邸筋」の話として、「核保有」発言を速報。これに共同通信、毎日新聞、時事通信といったメディアが続いたのである。

 朝日はなぜ、今回、オフレコ発言を報じたのか。広報に尋ねたところ、書面で以下の回答が届いた。

〈官邸幹部が12月18日、首相官邸内で10社以上の報道陣を招いた非公式取材の場での発言を報じたものです。この取材は、発言者の実名を明かさない条件で報じることができる形で開かれました。朝日新聞社は官邸幹部による発言であることを重くみて、公益性が高い内容と判断して報じました。発言者の実名は報じていません〉

 翌19日朝刊の紙面での扱いは、各社で異なった。初報を出した朝日新聞は、3面の囲み記事で〈官邸幹部「日本 核兵器保有すべきだ」/首相に安保の意見具申する立場/個人の見解 実現困難とも指摘〉と報じた。一方、毎日は2面で大きく展開。日本経済新聞は4面、産経新聞は5面で小さく扱ったが、読売新聞は主要5紙の中で唯一、朝刊では報じなかった。もっとも、その読売も19日夕刊で、木原稔官房長官(56)の記者会見内容を紹介する形で本件を伝えている。

「立憲民主党、公明党、共産党が一斉に『官邸幹部』の罷免を要求。日本原水爆被害者団体協議会も抗議談話を発表する事態に発展しました」(前出のデスク)

次ページ:「認識が甘かったと言わざるを得ない」

前へ 1 2 次へ

[1/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。