海外に行くと「日本は最貧国」だと痛感 いまや円が一人負け…回復の手立ては円高しかない

国内 社会

  • ブックマーク

円の下落で物価はさらに上がる

 最近は海外に行くたびに、自分は最貧国からやってきたと思わされる。

 日本国内では円安といえば、円とドルのルートばかりが語られる。実際、1ドル157円(12月22日16時30分現在)とは、恐るべき円安ドル高だが、そもそもドル自体が現在下落基調で、2025年7月には、主要通貨に対するドルの総合的な強さを示すドル指数が、3年3カ月ぶりに安値をつけた。要は、そんな状況で円はドルに負けまくっているのである。

 円の弱さはユーロとの比較でさらに顕著で、現在、1ユーロは184円を超え、史上最高値を更新し続けている。筆者はヨーロッパ(とくにイタリア)との間を行き来しているが、自動販売機で500ミリリットルの水を買うと、1.2~1.6ユーロ程度する。ということは、1ユーロが100円程度で適正だと思うが、いまのレートでは、水1本220円から290円程度になってしまう。

 水はまだマシかもしれない。ミラノの地下鉄の料金は2.20ユーロなので400円を超える。7.5ユーロのサンドイッチは1380円で、チェーンの和食屋で食べた鴨南蛮うどんは15.5ユーロだから2850円である。カジュアルな店で割安な15ユーロのパスタを食べても2800円近く、庶民的な人気店の定番のパスタは22ユーロで、4000円を超える。2~3キロ先までタクシーで移動して15ユーロ支払えば2800円近い。

 いま日本人が海外に行けば、こうして日本の比ではない強烈な物価高に直面するが、裏を返せば、海外から日本を訪れている観光客は、全方位的に激安の恩恵を受けていることになる。多くの外国人観光客は、この安さが魅力で日本を訪れていると思われ、日本の魅力が増したなどと勘違いしてはいけない。

 さて、円がこれほど安い状況で海外から物資を輸入することは、上に記したイタリアでの例のように、日本から見てべらぼうに高いものを買うということである。輸入せずに済めばいい。だが、日本は食料品の62%(カロリーベース)、エネルギー資源の90%を輸入に頼る、世界でも輸入依存度がきわめて高い国なので、国民の生活や国内の産業基盤を支える物資を、海外から買い続けざるをえない。

 それなのに、10月4日の自民党総裁選で高市早苗氏が選ばれて以降、円はドルに対して10円、ユーロに対して13円も下落した。高市総理は12月17日の記者会見で、「内閣総理大臣に就任してからこれまで、国民の皆様が直面している物価高への対応を最優先に、果敢に働いてまいりました」と成果を強調した。しかし、自身が円安を招き、それを放置している以上、今後のさらなる物価高騰のタネをつくっていることにほかならない。

物価高の原因をつくっている高市政権

 輸入に依存するしかない日本では、物価高の要因の過半は円安にある。2022年以降、新型コロナに加え、ロシアのウクライナ侵攻などの影響で、資源や農産物の価格が世界的に上昇したこともあるが、こうした条件は他国も変わらない。諸外国にくらべて日本が相対的に貧しくなっている原因は、ひとえに円安にある。

 現在の円安の起源は、2013年4月、第2次安倍晋三内閣がアベノミクスの柱としてはじめた大規模な金融緩和(異次元緩和)にある。これにより、そのころ1ドル80円前後だった円相場が急降下したが、いまに続く異常な水準は、2022年の春以降に訪れた。

 コロナ禍後のインフレに対処するため、FRB(米連邦準備制度理事会)が急速に金利を引き上げ、その後も上げ続けた。主要国の中央銀行もFRBに呼応したが、日本だけはかたくなに金融緩和に固執し、金利を抑え込んだ。結果として、日米および日欧の金利差は急拡大し、世界の主要通貨のなかで円は独歩安の状態になった。

 円安の要因は1つではなく、複雑な事情がからみ合っているが、円金利がドルなどに対して低いほど、市場はより高い利回りの通貨を求めるので、円は売られやすい。日本銀行は2024年3月、11年続いた異次元緩和を終え、長短金利操作(YCC)などもやめて、「金利がある世界」へ戻した。とはいっても、日銀の利上げへの姿勢は慎重で、日米や日欧の金利差は事実上、ほとんど縮まっていない。 

 こうして日銀が後手に回っているうちに、日本の貿易収支が悪化したり、いわゆる「デジタル赤字」が膨らんだりして、円が売られやすい状況は拡大してしまった。

 デジタル赤字とは、民間企業がデジタル化を進めたり、個人がユーチューブ、ネットフリックスなどのデジタルサービスを利用したりすると、それらの価格決定権も握るGAFAMなど海外企業への支払いが増え、赤字が膨らむという話である。デジタル関連収支の赤字は2024年に約6.7兆円に達し、今後も拡大の一途をたどるとみられている。新NISAによる海外資産投資なども、円安の要因のひとつとして指摘されている。

 そんな状況だから、日銀が2025年12月19日、政策金利を0.5%から0.75%に引き上げても、市場からは、むしろ利上げのペースが緩慢だと判断され、円安はさらに進んだ。もともと10月には0.75%になると見られていたが、日銀が金融緩和を指向する高市政権に配慮した結果、いったん据え置かれたようだ。実際、高市氏は自民党総裁に選出された直後の会見で、「金融政策の責任をもつのは政府だ」と発言した。こうした言葉も円安を招き、ひいては物価高の原因になっている。

次ページ:円が反転しない理由

前へ 1 2 次へ

[1/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。