「投手としてのピークは2年以上先」 山本由伸の“肉体の秘密”を専属トレーナーが明かす
達磨大師の修行を彷彿
高卒1年目で初勝利を挙げた山本は、矢田氏をトレーナーに迎えて才能が開花。入団3年目に先発ローテーション入りを果たすと、最優秀防御率のタイトルも獲得した。20年からは3年連続で勝利・防御率・勝率・奪三振の4冠に輝き、いずれの年もMVPに選ばれた。
そして23年オフにメジャーへ移籍。12年で総額3億2500万ドル(約502億円)という、投手としてメジャー史上最高額となる契約をドジャースと結んだ。
「山本君は今も昔も“もっと野球がうまくなりたい”との気持ちに突き動かされています。その真っすぐな人間性はこの8年間、まったく変わっていない。まるで達磨大師の面壁九年(壁に向かって9年間、座禅を組んで悟りを開いたという故事)のように、彼は日々、自分の内を見つめながら、新しい気付きを求めてエクササイズをやっているのです」
メジャーリーグではパーソナルトレーナーを付けるかどうかは選手個人の裁量に任され、互いの信頼関係を基盤とする契約形態を取るのが一般的だ。
ドジャース入団後、矢田氏は春季キャンプやポストシーズン中は常に山本に同行。レギュラーシーズンもホームゲーム時(月のうち10日超)は渡米して心身のケアに努めた。
「彼がエクササイズに費やす時間は最低でも毎日1時間半、通常は3時間程度をかけます。そしてオフシーズンになると、その2倍の量をこなします。室内で3時間、グラウンドでも3時間と、彼はオフの期間でも野球のことしか考えていない。実は野球選手が本当に成長できるのは、冬場の12月と1月の2カ月間しかありません。すでに彼はアメリカから帰国し、今もトレーニングに励んでいますが、さすがに今回は“1カ月は休め”と伝えました」
矢田氏によれば、“野球人生において一度や二度しかできないようなピッチングを、登板した毎試合で実現する”との姿勢でトレーニングに臨んでいるのだという。
山本が矢田氏の言葉に絶句した理由
そんな備えを怠ることのない山本だが、
「第7戦は、まさか自分が投げるとは思っていなかったようです。彼が第6戦で96球を投げて勝利を収めた試合後、“明日、ブルペンで投げられるくらいにやって(体を整えて)みいへんか?”と声をかけました。すると、山本君は“えっ”と絶句していましたね。続けて私が“明日、ブルペンに行く姿を見せるだけでも試合の流れは変わる”と言うと、彼の心に火がともったのか、“じゃあ、これから治療してもらえますか”と応じたのです」
ホテルに戻り、矢田氏が30~40分にわたって施術したところ、疲労が全身に蓄積しているのを確認した一方で、「明日、投げられる状態だ」とも感じ取った。
「第7戦当日の朝、彼に“昨夜は寝れた?”と尋ねると、“興奮が収まらず眠れませんでした”と言っていた。けれど試合前、軽くボールを投げていた山本君が“案外(体の調子が)良いですね”と声をかけてきました。私が“めっちゃ素直なボールやん”と返すと、“腕に張りを感じるんですけど、不思議とその張りを感じないように投げられるんです”と笑顔で答えた。それを聞いて“大丈夫だ”と確信しました」
WS勝利の立役者である山本はシリーズMVPも獲得し、「世界ナンバーワン投手」の称号を得たが、
「彼は自分のことを“世界一”だなんて思っていません。もちろん目指すのは“世界最高峰のピッチャー”ですが、まだまだ伸びしろがある。山本君は常々“40歳まで現役で投げ続けたい”と話していますが、おそらく投手としてのピークは2年以上先に迎えるのではないでしょうか。だから頂きを目指して歩むその道のりはまだ途上に過ぎないのです。さらなる成長を楽しみにしながら、今後も彼を支えつつ、見守っていきたいと思っています」
来年も、山本の活躍に胸が躍ることになりそうだ。
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