韓国が「核武装」する日 超親米派も「トランプは信用できない。自主国防を」と言い出して…鈴置高史氏が読む

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動機は異なれど左派も…

――左派はどう出ますか?

鈴置:この記事のもうひとつ面白い点は、左派も動機は異なれど保守と同じ方向に動く、と予測したことです。千英宇理事長もそう見ていますし、聞き手のキル・ユンヒョン論説委員も同じ意見です。

 左派は核武装に消極的でした。北朝鮮が核武装に動く中、韓国までが核を持てば、核保有国同士の対立となって和解が遠のく、と考えたのです。

 もっとも、文在寅(ムン・ジェイン)政権は異様に原潜を欲しがり、米国にねだりました。これは自分の核武装のための条件整備というより、北朝鮮に阿るのが目的だったと思われます。

 核兵器を持っただけでは本当の核武装にはなりません。先制核攻撃を受けた後の核反撃能力が必須です。文在寅政権は核反撃能力たる核ミサイル原潜を持てば「核弾頭は北、核反撃能力は南」という役割分担を果たせると考えたのでしょう。

 核弾頭は持たないにしろ、「民族の核」は持てる――。北朝鮮もこの役割分担を示唆することがありました。もちろん、米国はすべてお見通しでしたから原潜を与えませんでした。

 ただ、北朝鮮は2023年末に突然、対韓認識を「統一の対象」から「敵対的な2つの国家、戦争中の交戦国」へと180度変えました。韓国文化を遮断する狙いでした。原潜も独自に建造し始めました。

裏切られた者同士、轡を揃える

「統一」を国家目標に掲げ、「南北の話し合いが重要だ」と融和政策を説いてきたのが韓国の左翼。北朝鮮の突然の裏切りに困惑しています。千英宇理事長は今の状況をこう評しています。

・金[正恩]委員長は政権を守る『最後の盾』として永久分断を選択したのだ。統一に対する未練を捨て、韓国との交流協力をすべて止めるという論理だ。
・このような状況においては、韓国が『来年初めにあなたたちの嫌う韓米合同訓練はしないから、会って話そう』と言っても、効果はないと思う。

 キル・ユンヒョン論説委員は韓国の左右が直面した状況を、前文で以下のように描写しました。

・韓国保守の根本的教理だった「韓米同盟の強化」と、進歩の政策的出発点だった「南北関係の改善」が、いずれも不可能になってしまったのだ。このような変化によって、外交安保政策をめぐる進歩と保守との政策の対立軸も以前より緩んでいる。

――つまり、左右の安保政策が接近してきて……。

鈴置:「核武装中立」で轡を揃える――との読みでしょう。韓国の保守と左派を分かってきたのは北朝鮮に対する認識です。潜在的な敵と保守が見なせば、左派は統一すべき同じ民族の同胞であり、それを邪魔する米国こそが敵、と考えてきました。

 ところが、偶然にも同時期に左派は北に見限られ、保守は米国から見捨てられてしまった。それぞれの御本尊に裏切られた左右にとって、対立の材料が消えてしまったのです。

核武装中立が流れ

――左右は和解へ?

鈴置:左右対立は完全に遺恨試合化していて、政策論争を超えています。和解は簡単ではないと思います。保守の中には米韓同盟の希薄化を恐れる人も残るでしょう。左派にも同じ民族との連帯をあきらめきれない人もいるはずです。

 ただ、現実問題として韓国は誰が政権をとろうが、米国から離れ、北朝鮮とは距離を置く流れに乗っています。結果的に核武装して中立化する近未来へと流れつく可能性が高まったのです。

 すでに左派系紙に「核武装中立」を暗に主張するような記事が載り始めています。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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