韓国が「核武装」する日 超親米派も「トランプは信用できない。自主国防を」と言い出して…鈴置高史氏が読む

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北の核基地を自力で粉砕

――千英宇理事長は具体的にどうしようというのですか?

鈴置:自強――米国に頼らず、自分の国は自分で守る――です。その部分の発言は以下です。

・韓国は今後、『自強』を国家安保戦略、生存戦略の中心に据えなければならない。韓米同盟は『自強』だけでは耐えられない実存的『外部リスク』に備えるための保険だ。

 抽象論に留まりません。韓国にとって最大の脅威である北朝鮮の核ミサイル基地を自力で破壊できる能力を備えようと提言しました。

・北朝鮮の核ミサイルの先制使用を拒否する能力の整備が最も急がれる。抑止が失敗し、北朝鮮が実際に核を使用した時、米国にはそれを拒否する力量が足りない。
・そのような能力を韓国が整備するためには、有事の際、北朝鮮のすべてのミサイル基地と発射台を一挙に除去しうる玄武(ヒョンム)-5のような弾道ミサイル戦力を大々的に増強するとともに、多層ミサイル防衛網もきめ細かく整備しなければならない。

 千英宇理事長の自強論が本物だな、と思わせたのは「戦時の作戦統制権の回収を急げ」とも提言したことです。現在、戦争時には米軍が韓国軍を指揮する取り決めです。左派はこの「回収」を叫びますが、保守は極めて消極的です。

「回収」は米軍の撤収など、米韓同盟の弱体化につながるからです。しかし、千英宇理事長は敢えて早期回収を求めました。北朝鮮の先制核攻撃を防ぐために韓国が核ミサイル基地を攻撃しようにも、米軍の合意が必要で手遅れになる可能性が高いためです。

 作戦統制権問題でも保守の殻から抜け出し「自分たちの防衛はもう、米国任せにはしない」との決意を明確に表明したのです。

ウラン濃縮を急げ

――北の核基地は通常弾頭で破壊できるのですか?

鈴置:基地の一部は破壊できても完全には無理とされます。2017年の朝鮮半島核危機の際、米軍は威力の小さな戦域核も攻撃に使うと見る専門家が多かった。北の基地を1カ所でも破壊し損ねれば、韓国や日本が核攻撃を受けるからです。

 千英宇理事長は「核弾頭」とは一言も言っていませんが、その使用――核武装を前提にして立論しています。「ウラン濃縮を急げ」と提言しているのが証拠です。

・濃縮は必ずやるべきだ。現在の韓米原子力協定の下でも、米国製のウランや米国の装置を使わないなら、米国の同意を得なくても韓国自ら濃縮できる。濃縮技術は、いくら近い同盟国でも絶対に提供しない。自ら開発しなければならない。
・米国は1987年の米日原子力協定で、日本に濃縮に対する包括的な事前同意を与えた。だが日本は、その時点ですでにパイロットプラント(商業生産前の小規模な試験設備)を稼動するなど、すでに技術を有していた。技術を保有している国に対しては承認を拒否できない。
・複数の原子力専門家に聞いてみたら、韓国ほどの産業技術力なら、今から研究開発を行えば5年内に少なくともパイロットプラントぐらいは作れるという。商業用施設を作るには10年はかかる。

 11月14日、米国は平和利用のためのウラン濃縮と使用済み核燃料の再処理を韓国に原則認めました。10月29日の米韓首脳会談を受けた措置です。しかし、いずれも「米国の法的要件の範囲内で」との条件付きで、韓国にとって実質的な進展はありませんでした。

結局『おあずけ』でがっかり…韓国の原潜計画 合意文書の“誤訳”に見る李在明の苦しい現実」で詳述しています。

韓国に原潜は不要

――濃縮したウランは原子力潜水艦の燃料に充てるつもりでは?

鈴置:李在明(イ・ジェミョン)政権はウラン濃縮の目的にそれを掲げます。しかし、千英宇理事長はそもそも原潜の導入に反対なのです。

・海軍の潜水艦の元艦長の中でも最高のエリートは、この[原潜建造]計画に反対している。海軍指揮部がやると言っているから、公に声をあげないに過ぎない。

 ディーゼル駆動の潜水艦と比べ原潜は大型で、騒音も大きい。敵のミサイル潜水艦を沈めるための攻撃型にしても、ミサイルを発射するための潜水艦にしても、朝鮮半島周辺で運用するには原潜は隠密性に乏しく適切ではない――が千英宇理事長の持論です。

・核ミサイルを搭載した北朝鮮の潜水艦を捕捉するには、彼らが隠れている可能性の高い北朝鮮の水深の浅い沿岸や内海に入っていかなければならない。そこで待ち伏せし、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)が発射される前に撃沈しなければならない。この作戦には小さな従来の潜水艦の方が有利だ。

 北朝鮮が原子力推進型の核ミサイル潜水艦を建造しようとしていることにも千英宇理事長は首を傾げます。

・北朝鮮の立場からすれば、最も大切な2次核攻撃の手段が潜水艦であり、内海には安全に隠しておける場所が多いのに、なぜあえて米国の[攻撃型]原潜がうろつく危険な外海に出すのか。

 北朝鮮が核ミサイル原潜を持つのが不合理なら、同じ条件下の韓国も核ミサイル潜水艦を原子力推進にする必要はありません。にもかかわらず千英宇理事長が「何が何でもウラン濃縮をやりとげよう」と主張するのは、核弾頭の製造――核武装が目的ということでしょう。

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