中国が日本への“嫌がらせ”を行う背景に「深刻な不況」が 高い失業率、言論統制で「国民には不満がたまっている」

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“ちょっと脅してやろう”という気持ちがあった可能性

 こうした中国軍の無法な振る舞いは、今に始まったことではない。今年6月にはJ-15が海上自衛隊の哨戒機に異常接近する出来事があったほか、7月にはドイツ軍機が中国軍艦からレーザー照射を受けたと、独外務省が発表している。また、10月にはオーストラリア軍の哨戒機の近くで中国軍機がフレアを発射したとして、豪国防省が強く中国を非難した。

 小泉大臣は7日、そのオーストラリアのマールズ副首相兼国防相と会談し、中国の行動抑止のためにも連携を強化する方針を確認した。先の織田氏は、緊急の記者会見から会談に至るまでのこうした素早い流れを評価している。

「中国軍では末端が功を焦って独断専行で行動するということが、間々あります。最終的にパイロットの現場判断になる空中では、特に起こりやすい。今回は暗くなる時間帯のことで、レーダーを使い相手機の位置を把握するのは、当然といえば当然。ただミサイル発射準備とも取れる今回のやり方はマナー違反ですし、中国側のパイロットに“ちょっと脅してやろう”という気持ちがあった可能性は否定できない。大臣クラスが騒げば、中国共産党中央にも騒動の話が届き、現場を統制しようという動きが出てくることもあり得る。迅速に小泉大臣が会見したのは正解でした」

 それで現場の狼藉が収まるというなら、日本側の対応にも意味はあるだろう。しかし中国側の“トップ判断”だった場合、事情は深刻になる。先月の高市首相の「存立危機事態」発言から日中関係が冷え込んでいる現在、明確な中国側の“嫌がらせ”として、こうした行為が継続される恐れも捨てきれないという。

 前出の潮氏が言う。

「中国軍の活動は、もちろん台湾有事を見込んでのことです。太平洋上に展開した空母と、中国本土からの攻撃とで、台湾を挟み撃ちのように攻める可能性が指摘されています。そして空母を展開するには、今回のように沖縄本島と宮古島の間を通過せざるをえない。日本の戦力とも接近するこの海峡で、もし日本の領空を侵せば、自衛隊が動く。その時を想定したけん制だったのかもしれません」

中国国民の不満

 険悪な日中関係を抜きにしても、中国側には日本を挑発する理由があると語るのは、東京大学大学院総合文化研究科教授の阿古智子氏だ。

「中国の国内事情を見てみると、失業率が高く、不動産価格も上向かないなど不況に直面しています。厳格な言論統制も相まって、国民には不満がたまっている。それが党への批判につながらないように、台湾問題など“外”に国民の関心を向ける必要があります。今回のことも『日本が軍国主義に傾いている』という主張を広めるのに使おうとするでしょう。中国の一方的な主張で、日本に非があると見られることのないように、日本側は民主主義と法の支配の価値基準、事実に基づいて、国際社会に対してしっかりと説明責任を果たすべきです」

 駐日中国大使館は7日、Xで「台湾問題で火遊びをする者は、必ずや自らを焼き滅ぼすことになる」と日本語で投稿した。“火遊び”をしているのはどちらか、これを機に政府はハッキリさせておくべきだろう。

週刊新潮 2025年12月18日号掲載

特集「功名心で自衛隊機に『レーダー照射』 程度が低い中国軍に日本はどう対峙すべきか」より

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