「山上被告」に死刑求刑は難しい…元特捜検事が指摘する理由 被告人質問では「検察も裁判官も寛大な姿勢に見えた」

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 安倍晋三元首相を銃撃した山上徹也被告(45)の裁判員裁判が大詰めを迎えようとしている。12月18日に検察側の論告求刑と弁護側の最終弁論が行われ、来年1月21日に判決が言い渡される予定だ。総理大臣経験者が殺害されたのは1936年の二・二六事件以来となる重大事件、山上被告の量刑はどうなるのか。

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 参議院選挙の応援演説のため奈良を訪れた安倍元首相が銃撃されたのは2022年7月8日。あれから3年以上が過ぎ、今年10月28日に奈良地裁で行われた初公判の冒頭陳述で、検察は以下のように指摘した。

「多数の聴衆が存在する中、元首相が白昼堂々、手製銃で殺害されたという、わが国の戦後史において前例を見ない、極めて重大な結果・社会的反響をもたらした」

 周知の通り、山上被告は母親が旧統一教会(世界平和統一家庭連合)に入会し、多額の献金をしたことで破産、自分の人生まで狂わされたことを恨んでいた。教団幹部を襲撃するつもりだったが失敗したため、教団と結びつきが強い安倍元首相の殺害を決意したと供述している。

 初公判を報じる新聞各紙は「戦後初めて首相経験者が殺害された“テロ”はどう裁かれるのか」と、この事件を“政治テロ”と見る論調が多い。通常の判例では、殺人が1人だけなら死刑を求刑されることはまずない。だが“政治テロ”となれば話は別だ。

 07年に起きた長崎市長射殺事件では、暴力団組員が4選を目指して立候補した現職市長を公道で射殺。影響力のある政治家を公衆の面前で殺害した“政治テロ”は民主主義の根本を揺るがす犯罪として死刑が求刑され、一審では死刑の判決が下された(その後、無期懲役が確定)。

 山上被告の裁判でも同様の追及が行われると考えられていた。ところが、「裁判の行方が変わってきている」と話すのは東京地検特捜部の副部長などを歴任した若狭勝弁護士だ。

死刑求刑は難しい

「12月3日の第13回公判で、検察が安倍元首相を狙うことを納得していたのかと尋ねると、山上被告は『教団に賛意を示す政治家の最も著名な人というのは、意味がないとは思いませんが、本筋ではない』と答えています。“本筋ではない”という答えを導き出してしまったことで、“政治テロ”を指摘しにくくなってしまいました。となると、死刑求刑は難しい」(若狭弁護士)

 まるで検察が“政治テロ”を否定する供述を引き出してしまったかのようだ。

「訴訟というのは検察と弁護人の両方の主張を聞いて、裁判官あるいは裁判員が判断するシステムです。弁護人は文字通り被告を弁護するのですから、対する検察は“政治テロ”として、もっと深掘りして追及することが職責だと思います。仮に検察が“政治テロ”と考えていなかったとしても、真実をえぐり出す立場ですから厳しく鋭い質問をして、その受け答えを見て本当に“政治テロ”なのかそうでないのか判断すべきだと思います。それでないと、真実は見えてこないのです。検察まで弁護人と変わらないようなことを言っていては、どちらの質問なのかわかりません」(若狭弁護士)

 前述のように、当初、検察は“政治テロ”と考えていた節がある。

「安倍元首相の評価は様々あるとは思いますが、憲政史上、最長期間、総理大臣を務めた影響力が大きい人であることは間違いありません。その人を白昼堂々、殺害したわけですから、検察も公判の出だしでは勢いがありました。ところが、山上被告へ質問をするようになって、トーンダウンしてきたような印象を持ちます」(若狭弁護士)

 それは裁判官にも感じるという。

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